研究課題/領域番号 |
18J20948
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西山 慧 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 記憶 / 意図的抑制 / 再認 / 認知神経科学的シミュレーション |
研究実績の概要 |
本年度は記憶の意図的な抑制のメカニズムを解明するために,心理実験を用いた研究およびシミュレーションを用いた研究をそれぞれ行った。 心理実験を用いた研究では,想起の意図的な抑制が内的な注意の制御を主にreactiveに駆動させることによって達成されているという先行研究から得られた仮説を,外的な注意制御課題を用いて検討した。 内的な注意制御を検討するために外的な注意制御課題を用いた理由は,内的な注意制御を実験的に操作することが難しいが,それをうまく外的注意制御課題でモデル化することができれば検討が可能になると考えたからである。 予備実験の結果,従来の研究と同様の結果を得ることができなかった。 そのため,もう一度文献展望を行い,来年度以降に実験を実施する予定である。 シミュレーションを用いた研究では,再認記憶の認知神経科学的モデリングをおこなった。 これは,米国のUniversity of California, Davisに所属するRandall O'Reilly教授および同所属で再認記憶研究の世界的研究者の一人であるAndrew Yonelinas 教授との共同研究である。 この研究では,再認を構成する回想と親近感という2つのプロセスのうち回想においてより強く忘却が生じるという実験研究の知見に対して,それぞれのプロセスを支える脳領域の特性を反映した認知神経科学的シミュレーションモデルを作成し,そのメカニズムを示した。 現在,本成果を報告するための論文を執筆する段階に入っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,行動実験を通して,記憶の意図的な抑制がもたらす後遺効果についての知見を深めることができた。 これらの研究結果を順次論文にまとめ投稿することができている。 さらに,在外研究を通じて認知神経科学的シミュレーションのスキルを身につけることもできた。 今後は,これまでの研究をまとめつつ,シミュレーションを活用し理論の精緻化を目指す。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,これまでの自身の研究を含めた先行研究の概観を行い,記憶の意図的な抑制が忘却をもたらすメカニズムについての仮説を提唱する。 特に,次の2点に注目してレビューを行う。 1つ目は,記憶の意図的な抑制によって生じる後遺効果についてである。 記憶の意図的な抑制は当該記憶の忘却をもたらすが,感情・選好・創造的思考にも影響を及ぼすことが知られている。 これらの後遺効果の範囲を探ることを通して,意図的な抑制が記憶のどの側面に,どのように作用しているのかについての認知的なモデルを検討する。 2つ目は,記憶の意図的な抑制の神経メカニズムについてである。 記憶の意図的な抑制の神経メカニズムについては,fMRIやEEGを用いた検討が進められてきている。 これまでの研究から,エピソード記憶の保持・想起を支える海馬と,制御を司る背外側前頭前皮質が記憶の意図的な抑制にとって最も重要な脳領域であり,背外側前頭前皮質の活動上の上昇によって海馬の活動が低下し,記憶の再構成を妨害していると考えられている。 しかしながら,これら2つの領域の間に直接の神経接続があるわけではなく,どのような経路によって2つの領域が作用しているのかは明らかとなっていない。 これまでに仮説的な神経メカニズムを提案している研究がすでに存在するため,それを参考にシミュレーションモデルを作成する。 先行研究では,想起の意図的な抑制を繰り返すことによって,徐々に抑制すべき記憶が意図に反して想起される頻度が減少していくことが報告されている。 はじめに,この結果を再現するモデルの完成を目指す。 2つ目で作成したシミュレーションモデルを用いて,1つ目に概観した後遺効果が生じるパラメータを検討し,記憶の意図的な抑制が忘却をもたらすメカニズムについての仮説を提唱する。
|