本年度は,記憶の意図的な抑制がどのようなメカニズムで忘却を引き起こすのかについて検討するための実験を行った。これまでの自身の研究で,忘却を検出するための記憶テストにおいて,再生潜時を測定し,そのデータを用いて逐次サンプリングモデルのパラメータを推定することで,忘却のメカニズムを詳細に検討できることが示唆されていた。しかしながら,記憶の意図的な抑制を検討するThink/No-Thinkパラダイムの標準的な手続きでは,記憶テストの試行数が少なく,安定してパラメータを推定できていたとはいえない。そこで,実験手続きを修正し,Think/No-Thinkパラダイムの手続きを繰り返すことで記憶テスト時の試行数を増やせるようにした。まずはこの手続きの変更を行っても,先行研究と同様の結果が得られるかどうかを検討した。しかし,残念ながら,先行研究で示されてきたような忘却効果は観察されなかった。実験の実施に加え,本プロジェクトで行った研究成果の論文化にも注力した。数本の論文を執筆したが,そのうち1本については英文国際誌Psychologiaに,もう一本は英文国際誌Cognition and Emotionに採択された。その他の論文も国際誌に投稿し査読中である。さらに,それらを含めた記憶の意図的な抑制に関する先行研究を概観し,展望論文としてまとめた。こちらは,日本語論文としてまとめ,投稿し,現在査読中である。
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