研究課題
生物が月の相に合わせて産卵を行うことを月周性産卵と呼び、そのような生物は種ごとに決まった月の相で産卵するおよそ1か月の月周性リズムを示す。月周性産卵の制御には夜間の月光が深く関与することが示唆されているが、その発振機構については不明な点が多く残っている。本研究では月周性産卵の仕組みを明らかにするための基礎的な知見を得ることを目的として、外部光環境を体内へと伝達する役割を果たすホルモンであるメラトニンが月周性産卵魚カンモンハタの視床下部―脳下垂体―生殖腺系(HPG軸)へと与える影響を検証した。本年度では2回のメラトニン投与実験を以下の通りに実施した。(1)長期投与実験(2018年6月):自然界から採取した雌個体にメラトニンを浸透圧ポンプによって約3週間投与を行った。その結果、脳下垂体域の生殖腺刺激ホルモンベータサブユニット遺伝子(fshβとlhβ)の発現が抑制されることをリアルタイムPCR法で確認した。(2)短期投与実験(2018年9月):(1)と同様に採取した雌個体にメラトニンを投与した。7時間後のHPG軸への影響は見られなかった。以上の結果から、メラトニンはHPG軸の脳下垂体に対して抑制的に作用することが明らかとなった。この現象は、恒常的な血中メラトニン高濃度状態が生理的な新月状態を模した結果、HPG軸が抑制されたと考えられ、カンモンハタの生殖活性が月光によって調節されていることを示唆している。このことは、およそ1か月周期の月光の量的変化が、メラトニンを介して月周性の生殖腺発達を調節するという仮説を支持する形となった。
2: おおむね順調に進展している
実験計画の通りにサンプリングを行い、カンモンハタの脳内の生殖関連遺伝子の発現量の定量を実施した。それによって、本種の月周性産卵の発振機構にメラトニンが関与する可能性を示す結果を得た。既にこれらのデータについての英語論文の執筆を終え、査読中にあるため。
本年度においては、飼育水温の急激な変化によって、飼育個体がへい死したために当初の実験計画であった「月光条件下飼育実験」の実施に至らなかった。そのため、対応策として供給海水の備蓄水槽を設置し、当該水槽においてヒーターやクーラーを用いて水温を制御する体系を設備することで安定した水温条件下での飼育環境を整備する。その上で、次年度において再度実験を実施する予定である。また、本年度で得られた結果を精査し、脳下垂体細胞に対するメラトニンの影響についても明らかにしていく予定である。
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General and Comparative Endocrinology
巻: 印刷中 ページ: -
10.1016/j.ygcen.2019.03.019
時間生物学
巻: 25 ページ: 29-35