研究課題/領域番号 |
18J20963
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
文野 優華 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 2核錯体のチューニング / 不斉アリル位CHアミノ化反応 / キラルシッフ塩基錯体ライブラリー / 内部にオレフィンを有する基質 |
研究実績の概要 |
申請者が開発している、二つの金属を一つの触媒上に組み込んだ2核シッフ塩基錯体を様々な不斉アリル位C-H官能基化反応に適用したところ、分子内アリル位CHアミノ化反応において選択性の誘起が観測された。なお、申請時に提案していた2つの金属を導入した錯体は不安定で単離することができないため、反応溶液に配位子と金属を加え、系中で2核錯体を発生させている。 収率および選択性の向上を目指し、まずは本錯体の利点であるリガンド構造と金属の多様な組み合わせを検討することで不斉誘起に最適な触媒構造の検討を行った。その結果、(R)-binaphthyl diamine骨格とCuの組み合わせにおいて良好な選択性で目的物が得られることがわかった。 高い立体選択性を示す錯体構造の探索や反応条件の検討、基質の検討を行ったところ、NHをリンカーとする基質を用いた際に良好な収率で、かつ今までで最高の91% eeを観測した。高い選択性がみられる理由を調査した結果、マイナーエナンチオマーが時間経過に伴って選択的に分解し、光学分割が起きているためであることを明らかにした。 また、内部にオレフィン構造を有する化合物に本錯体を適用したところ、反応が進行し、選択性が誘起されることが分かった。内部オレフィンを基質としたPd触媒によるC-Hアミノ化反応はこれまでに報告例がなく、本反応の高立体選択的制御実現できれば合成化学上非常に価値が高い。反応条件の最適化を目指し検討を行った結果、81% eeでアミノ化反応が進行することがわかった。現在は収率向上を目指した反応条件検討を行い、論文投稿に向けて準備を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、二つの金属を一つの触媒上に組み込んだ2核シッフ塩基錯体を用いて、多様な不斉アリル位C-H官能基化反応を達成することを目標に研究を開始した。申請時の研究計画では、1. 2核錯体のチューニング、2. 不斉アリル位C-Hアルキル化、酸素化、アミノ化への適用を博士3年間かけて行うことを予定していた。以下に今年度の研究の進捗状況を述べる。 まず計画のとおり、錯体構造のチューニングに取り組んだ。配位子構造の幅広い検討に加え、それらと金属の組み合わせを調査した。当初予定していた、ハイブリッド型触媒の調製では良好な結果が得られなかったが、多様なキラルシッフ塩基錯体ライブラリーの構築に成功した。 続いて、予定していた不斉アリル位C-H官能基化反応への触媒系の適用を試みた。アルキル、酸素化、アミノ化反応に用いたところ、アミノ化反応において低選択性ながら不斉誘起が観測された。添加剤や反応条件の検討に加え、申請書においても重要性を示していた「配位子構造の多様性と多様な金属との組み合わせ」を活かすことで、現在81%eeにまで選択性が向上した。また、本触媒が適用できる基質の範囲を検討したところ、従来のPd触媒では用いることのできなかった内部にオレフィンを有する基質へ適用できることがわかった。現在は論文投稿に向けてさらなる収率、選択性の向上を目指し検討を行っている。当初予定していた順番とはやや異なるが、3年目に実施を予定していた不斉アミノ化反応において順調に研究を進展させている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、まず今回得られた結果をさらに良好なものにするべく検討を行い、論文投稿を目指す。具体的には、内部オレフィンを持つ基質における条件検討はまだ十分に行っていないため、今後検討を続けていく。基質適用範囲をより詳細に調査するため、1.基質の調製 2.反応への適用 を行う予定である。また、反応機構に不明点が多いため、機構解明も同時に行う。 これらを博士2年前半までに行い、博士2年目後半からはM1金属の機能を活かした不斉反応を実現するべく研究を行うことを予定している。これまでの結果では、M1金属の役割は錯体の構造を調製することのみであった。複核錯体の利点を最大限生かすため、M1金属を申請書に記載したような追加の機能を持たせることを目指す。求核剤の活性化、ルイス酸として酸化剤を活性化、酸化剤としての使用などが可能であると考えている。 博士3年目では、これまで本触媒系を用いて実現できなかったアリル位C-H酸素化反応、アルキル化反応への適用を目指す。メカニズム解析を行いながらその原因を解明し、反応が進行する基質や反応条件を探索する予定である。また、申請時は分子間反応を志していたが、本年度中に分子間反応を行ったところ、反応が進行しない結果が得られた。今後は分子間反応にこだわらず、酸素化、アルキル化への適用を目指していきたい。これらについても、申請時に示した基質活性化のコンセプトを活かすことで達成したいと考えている。
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