申請者は、高活性、高選択性、汎用性、以上3つの条件を満たす優れた触媒の開発を目指し、スルホキシドを本錯体に組み込むことでソフトな金属を導入した新規二核ビススルホキシドシッフ塩基錯体を設計・合成した。 これまでの研究において、既存のPd触媒では実現できなかった、内部オレフィンのアリル位C-H活性化が新規触媒では可能であることを見出した。本年度は基質適用範囲の拡大、メカニズム実験を行った後に、論文報告をする予定であった。 まず、基質適用範囲の調査のため、すべての基質において単離スケールで反応を行い、過去において問題となっていた再現性も克服して信 頼度の高いデータをそろえた。適用範囲は末端にフェニル基を有する基質のみにとどまらず、ナフチル基 や複素環が置換した基質においても良好な収率、選択性で反応が進行することがわかり、開発した反応系 の有用性を示すことができた。 次に、メカニズムの調査を行った。新たに開発した触媒系であり、触媒活性種や反応機構は明らかになっておらず、触媒の性質を理解する上でメカニズムの解析は重要である。コントロール実験や触媒の安定配座計算から、当初想定していた二つの 硫黄原子がパラジウムに配位する触媒構造ではなく、一方のスルホキシドとフェノキシドのローンペアが cis配位をした構造がもっともらしい構造であることがわかった。また、本系では原料の幾何異性が生成 物の絶対立体配置に影響を及ぼすという非常に興味深い結果が得られ、その実験結果から本反応の立体制御が C-H結合切断の過程に起きていることを証明した。アリル位C-H官能基化反応について多くの知見を 与えるものであり、期待以上の研究成果といえる。
|