研究課題/領域番号 |
18J20984
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池上 康寛 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 人工神経 / 神経組織再生 / ナノファイバー / 多孔質性チューブ構造体 |
研究実績の概要 |
本研究は、機能性分子を固定化し、その局所密度を有効値に維持することで神経再生を促すナノファイバー足場基材、及び患部へ炎症性細胞の侵入を抑制することで神経再生経路の確保を担うチューブ構造体の開発により、自家神経移植に代わる長距離神経欠損の治療法創出を目的とする。 本年度は、多孔質性チューブ構造体の開発を主に行った。長距離末梢神経欠損の再生においては、患部への炎症性細胞の侵入抑制が重要視される一方で、管壁を介した良好な物質交換性が望まれている。そこで本研究では、ナノファイバーシートから構成される多孔質性チューブ構造体を作製し、管壁細孔を細胞の侵入が困難なサイズ(1μm以下)に低減することで機能性分子などの再生を促進し得る生体分子の選択的透過を目指した。 生分解性高分子から成るナノファイバーシートを作製し、独自に作製した透過性評価デバイスを用いて本基材を介した細胞と生体高分子の透過性を評価した。その結果、本基材は血漿分離膜としても用いられるCTA膜(ポアサイズ0.2μm)と同様に、炎症性細胞の一つである線維芽細胞の透過を抑制し、生体内で豊富に生産される比較的大きなタンパク質であるアルブミンを透過可能であった。また、本基材をチューブ状に成形しラット坐骨神経欠損部へと移植したところ、高い柔軟性と形状復元性を示し、移植2週間後も形状を保持していた。さらに、欠損モデルラットの術後挙動観察と坐骨神経支配領域の筋組織の重量測定を行ったところ、実験終了後も歩行に不具合を残しており、同一個体の健常組織との比較において、筋組織重量の大幅な減少が確認された。 以上より、本基材は炎症性細胞の侵入を抑制可能であり、生体高分子の選択的透過を可能とした。また、高い柔軟性と形状復元性を有しており、チューブ構造体へと成形することでラット坐骨神経欠損モデルへの移植が可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の科研費交付申請時に予定した研究計画は、足場基材の力学的強度を向上し、末梢神経組織を構成する初代神経系細胞を用いて培養評価を行い、当基材のより臨床に近い段階の生体適合性、有効性評価を行うことをであった。足場基材を構成する生分解性高分子の分子量を上昇させることで、力学的強度の向上には成功したが、培養評価に関しては未だ初代細胞の効率的な取得・単離が実現できていない。 一方、チューブ構造体の開発に関しては、当初想定していた構造とは多少異なるものの、チューブ構造体に求められている炎症性細胞の侵入抑制能、生体分子の良好な透過性、移植に適した強度を両立した多孔質性チューブ構造体の作製に成功した。さらに、研究計画を前倒してラット坐骨神経欠損モデルの作製、チューブ構造体の移植手技の取得に成功した。 初代神経系細胞の取得方法については更なる改良が必要であるが、研究の最終段階とも言える移植評価までの一連の手技取得に成功したことから進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ナノファイバー足場基材の開発については、初代神経系細胞の取得・単離に関する更なる検討を行い、より動物実験に近い形で機能性分子固定化による再生促進効果を立証していく。また、ヘパリン結合性を有する種々の機能性分子を足場基材へと固定化し、その量や種類を最適化することで機能性分子の共固定による更なる再生促進効果を検証する。 多孔質性チューブ構造体の開発については、生分解に伴う物質透過性、力学的強度の経時的変化を評価することで、生体内における本基材の構造的、機能的安定性を確認していく。 本研究における新規人工神経のラット神経欠損モデルへの移植評価については、欠損モデルの作製練習、チューブ構造体の移植練習を行いながら手技の向上を図るとともに、陰性対照群として病態を評価していく。その後、チューブ構造体内部に機能性分子を固定化した足場基材を充填し神経欠損モデルへ移植することで、本基材の有効性を評価する。また、移植結果を基に固定化する機能性分子の密度、種類へのフィードバックを行い、再生促進効果向上に向けた検討を行う。
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