研究課題/領域番号 |
18J20988
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研究機関 | 政策研究大学院大学 |
研究代表者 |
江上 弘幸 政策研究大学院大学, 政策研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | モバイルマネー / マッチングファンド / 出稼ぎ労働者 / 送金 / 教育投資 / 発展途上国 |
研究実績の概要 |
本年度は、2018年9月まで、フィールド実験の実現可能性を確認するためのパイロットテストを実施した。抽出された少数の被験者に対してモバイルマネーを通じて送受金を行った結果、事務処理上の問題がないことを確認した。また、短期間に電話サーベイを繰り返し実施するうえで気をつけるべき点を洗い出した。2018年10月、マッチングファンドのフィールド実験に向け、電話でのBaseline survey(実験前の被験者の社会的経済的状況を調査するもの)を800ペアの被験者(ダッカの縫製工場の出稼ぎ労働者&その地元家族)に対して実施した。家族構成、健康状況、労働や(学生であれば)勉強の状況(家庭教師や参考書の利用状況など)、資産・貯蓄・ローンの情報、疾病などのショック、送金やお金の貸し借りの情報、工場内の知人関係、基本的な算数の能力といったデータを収集した。 マッチングファンドでは、参加者がファンドに自らの資金を送金した後、その額と同額の補助金を上乗せして2倍の金額を実家に送金する。2019年初から2019年5月まで、実験参加者からのマッチングファンドへの申込を受け付けた。マッチングファンドは被験者にとっても馴染みのない仕組みであることなどから、被験者から実験に対する信頼を得るためにプロモーション活動を行う必要があることが判明した(もともとプログラムを説明するパンフレットを作成して配布する計画であり、それは実施したものの、それだけでは不十分なことがわかった)。工場に出向いて説明会を開いたり、マッチングファンド利用者がいることを周知するSMSを送信したり、小額から気軽にできるお試し利用の機会を提供したりといった方策を、take-up rateをあげるために実施した。これらの取り組みの結果、徐々に申込が増え、多額の現金を送金する被験者も現れた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
想定外の出来事がいくつかあり、計画に若干の遅れが生じている。2018年末、バングラデシュでは最大の国政選挙が実施された。その際、2018年11月~翌年1月にかけて、死者がでるような激しい賃上げストライキやデモを縫製工場の労働者が行った。さらに、協力工場のいくつかは、欧州メディアに「労働者への処遇に問題あり」という否定的なニュアンスでとりあげられた。その影響で、これまで研究に協力的だった縫製工場のマネジメント層が、センシティブになり、マッチングファンドのフィールド実験の実施を拒否するようになった(2018年11月)。本研究の対象は直接的には労働者であり、工場のマネジメント層ではないものの、マネジメント層の労働者への影響力は大きく、その非協力的な態度はそのまま労働者にも伝染してしまった。この結果、本来は2018年11月にマッチングファンドの利用者を募集する予定だったが、実施不能となった。ストライキやデモがおさまり現地の治安が回復するのを待って、2019年1月末、研究代表者は状況を打開するためにバングラデシュに渡航し、協力工場との関係回復に取り組んだ。その結果、有力官庁やバングラデシュ縫製品製造業・輸出業協会(BGMEA)の幹部、現地商工会議所の会長の協力を取り付けることができた。そのうえで工場と交渉を行った結果、多くの工場との関係を回復することに成功した。これにより、2019年2月にマッチングファンド利用者の募集を再開することができた。その分スケジュールは後ろ倒しになってしまったが、プロジェクトが実施不能なほどではない。
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今後の研究の推進方策 |
2019年5月現在、マッチングファンド利用者の受付を行っている。5月中に申請受付を締め切り、2倍になった教育資金の配布を開始する。最大10ヶ月間、教育資金の配布を行う。4~5月に、800ペアの被験者の、インターベンション開始直前の社会経済的行動を調べるための簡易な電話サーベイを行っている(M1サーベイと呼称、baseline surveyに比べて質問項目を限定的にすることで、コスト削減と被験者の負担削減を狙う)。これにより、マッチングファンドを利用することに決めた被験者の貯蓄や借金、送金行動および労働時間や健康状況などを調べる。6~7月には、800ペアの被験者の、インターベンション開始直後の社会経済的行動を調べるための電話サーベイを行う(M2サーベイと呼称)。その後、2019年8月~2020年1月の間に、M3サーベイ(可能ならM4サーベイも)を実施する。さらに、2020年2~3月ころ、実験後の被験者の社会的経済的状況を調査するためのfollow-up surveyを実施する。M2サーベイ以降は、地元家族の学生の勉強状況や教育成果に関する調査も重点的に行う。教育成果については、年末に実施される国家レベルの統一試験の(被験者家族の生徒の)スコアを参照するほか、被験者に生徒の成績書を写真撮影して提供してもらう。この間、2019年6月~2019年末にかけて、M3サーベイまでで収集できた情報を用いて分析を行い、学内セミナーなどの場で発表する。その後、2020年6月ころまでに重点的に論文作成を行う。また、並行して、学会発表を行う。
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