研究課題/領域番号 |
18J21015
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 風花 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | キプロス / 東地中海 / ヴェネツィア / オスマン帝国 / ギリシア正教 / カトリック |
研究実績の概要 |
本研究課題は、中近世キプロスにおける正教徒をめぐる諸問題から、東地中海世界における複数宗派間の相互交渉のありようを明らかにすることを目的としている。そのさいに重要となるのは、リュジニャン朝期の1260年に教皇アレクサンデル4世が公布した『キプロス勅書』にもとづく正教会とカトリック教会の共存体制である。この体制は、ヴェネツィア支配期においても両教会の制度上の位置づけを規定したため、その成立過程と意義を明らかにすることは、本研究の基礎をなす課題である。そこで、リュジニャン朝期に在地のカトリック教会聖職者と王権・貴族とのあいだでなされた合意に注目し、その内容と意義について検討した。これらの考察結果については、2018年8月20~22日に開催された中近世イタリア史研究会において、口頭発表をおこなった。質疑応答のなかで、リュジニャン朝期では領主‐農民関係にどのような変化が生じたのかという点や、いわゆる「教会合同」と同一の文脈で語ることの是非など、検討すべき課題が明らかとなった。
2018年8月末から9月半ばにかけては、ヴェネツィアに約3週間滞在し、国立ヴェネツィア文書館において史料調査を実施した。滞在期間中には、パドヴァにおいて、ヴェネツィア領キプロス史の専門家であるE.スクファリ氏と面会し、研究上のアドバイスを得ることができた。
2018年11月には、第86回西洋史読書会大会および東欧史研究会2018年度第3回例会において、ヴェネツィア領キプロスにおける対抗宗教改革についての口頭発表をおこなった。前者では宗派化論との関連やオスマン帝国支配期への展望について、後者では複数宗派の混住地域でキプロスとは異なる対抗宗教改革の影響がみられた東欧地域の視点から、重要な指摘を受けた。西洋史読書会大会および東欧史研究会での議論の内容を踏まえ、論説としてまとめ、現在史学研究会編『史林』に投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ヴェネツィア領キプロスにおける対抗宗教改革の展開について、国内で口頭発表をおこない、質疑応答の内容を加味して論説としてまとめ、査読つき学術雑誌『史林』(史学研究会編)に投稿することができた。また、ヴェネツィア領キプロスにおける正教会とカトリック教会の共存体制の成立過程を理解するために、リュジニャン朝期にかんする史料収集もおこない考察を深め、国内で口頭発表をおこなった。
国外調査としては、ヴェネツィア国立文書館において、おもにヴェネツィア支配期末期のキプロスにかんする行政書簡等を収集した。当文書館では、ヴェネツィア本国政府関連史料のデジタル化が進められており、現物へのアクセスが一部困難になっていた。今回の滞在で文書館の史料の利用状況を実際に確認できたことは、今後ヴェネツィアでの史料調査を実施していくうえで有意義であったと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、中近世東地中海世界における複数宗派の相互交渉のあり方を、キプロスにおける正教徒をめぐる問題を軸に検討する。本年度に国内で研究発表をおこなったさいに明らかとなった課題を中心に、ヴェネツィア支配期の正教会とカトリック教会の共存体制の基盤となったキプロス勅書体制について、さらに考察を深める。
次に、本年度の研究課題を遂行するなかで、オスマン帝国支配期初期のキプロスの正教会について、ヴァチカンの布教聖省の関連史料が刊行されていることを知り、これを入手した。当初の研究計画と順序が前後するものの、これまで取り組んできた対抗宗教改革というテーマとの関連の深さから、今後はこの史料の検討にも着手していきたいと考えている。
これらの研究課題を効果的に推進するため、2019年9月より約1年間、イギリスのバーミンガム大学ビザンツ・オスマン・近現代ギリシア研究センターにおいて、ダニエル・レイノルズ講師の指導のもと、在外研究をおこなう予定である。在外研究期間中には、イタリアのヴェネツィア国立文書館において史料調査を実施することも計画している。
|