研究課題/領域番号 |
18J21020
|
研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
岡田 和也 秋田県立大学, システム科学技術研究科 総合システム科学専攻, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | キューブ状ヘマタイト粒子 / モンテカルロ法 / 凝集現象 / 秩序パラメータ / 透視度改善技術 / ブラウン動力学法 / 汚濁物質 / 吸着性能 |
研究実績の概要 |
3次元系のキューブ状磁性粒子分散系を対象に,モンテカルロ・シミュレーション・プログラムを開発し,本プログラムを用いて凝集体の形成メカニズムおよび磁場などの影響による凝集形態の相転移現象を解明した.具体的には,熱力学的平衡状態におけるキューブ状ヘマタイト粒子分散系を対象とし,粒子間の磁気的な相互作用,磁場との相互作用および粒子の体積分率がキューブ状粒子の凝集構造に及ぼす影響をスナップショット,動径分布関数,秩序パラメータおよび配向分布関数などを用いて,定性的および定量的に検討した.また,凝集構造の形成メカニズムを解明するために,数個からなるクラスタを対象にエネルギー解析を行うことによって,クラスタ内の最も好ましい粒子配置(クラスタ内の粒子の磁気モーメントがどのような方向に配向した場合にエネルギーが最も低くなるのか)を検討した.キューブ状粒子特有の面接触により,粒子間相互作用がある臨界値を超えると,急激に凝集体が形成されることを明らかにした.また,印加磁場の影響により,凝集体の内部構造が壁面状クラスタへと転移することを明らかにした. また,期待以上に研究が進展したため,球状の汚濁物質および棒状の投入粒子からなる分散系の重力場中での挙動をブラウン動力学法を用いることにより解析した.本研究の目的としては,投入粒子の体積分率および個数が一定の状況下において,投入粒子の形状が吸着特性にどのような影響を与えるのかを解明することである.主な結果をまとめると次のようになる.ブラウン運動が活発に作用する状況下において,大粒子の形状は吸着性能に大きな影響を与える.アスペクト比が大きい粒子の場合には回転ブラウン運動の影響により,吸着率が75%向上する.これは,大きいアスペクト比の粒子の場合,回転ブラウン運動の影響によって,より多くの小粒子と接触する機会が増えるためである.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画当初では,平成30年度にキューブ状ヘマタイト粒子に関するシミュレーション・プログラムを構築し,3次元系でのキューブ状粒子の凝集構造についてモンテカルロ・シミュレーション法を用いて検討する予定であった.しかしながら,平成29年度の採用までの準備期間中にシミュレーション・プログラムを構築することができたため,得られた結果をまとめ,国内の学術誌に投稿し掲載させた.さらにはスペイン・マドリードで開催されたヨーロッパコロイド界面学会主催のECIS2017においてポスター発表を行った. 平成30年度では,平成29年度に行うことができなかったキューブ状粒子の凝集構造の形成メカニズムに関して,数個からなるクラスタを対象としたエネルギー解析を行うことにより,格子構造を有する大きな凝集構造がどのようなメカニズムにより形成されるのか検討した.得られた結果をまとめアメリカ・ピッツバーグで開催された米国機械学会主催のIMECE 2018にて口頭発表を行った.さらに,研究成果は国外の学術誌(Molecular Physics: IF=1.704)に掲載された. また,当初の計画以上に研究が進展したため,平成31年度に行う予定であった棒状粒子を用いた河川・湖沼の透視度改善技術のためのブラウン動力学法に関するシミュレーション・プログラムの構築も行い,得られた結果をまとめ,国内の学術誌に投稿し掲載させるに至った.また,スペイン・リュブリャナで開催されたヨーロッパコロイド界面学会主催のECIS2018においてポスター発表を行った. さらには,キューブ状粒子を対象としたブラウン動力学法のシミュレーション・プログラムを構築を目指すために,キューブ状粒子の拡散係数に関する検討を行った.得られた結果をまとめ,国内の学術誌に投稿し掲載されるに至った. 以上の研究結果により,当初の計画以上に研究が進展していると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
現在,キューブ状粒子を対象としたブラウン動力学法は構築されていない.キューブ状粒子の動力学的なシミュレーション法を構築することができれば,キューブ状磁性粒子の凝集構造と磁気粘性効果の関係を解明することができる.そのため,キューブ状磁性粒子を用いた新たな磁気制御型ダンパーおよびアクチュエータの開発に貢献することができる. また近年では,ブラウン緩和現象に基づいた磁気温熱療法への応用のために振動磁場中における磁性粒子サスペンションの発熱特性に関するシミュレーション的研究が行われている.しかしながら,この研究で取り扱われているのは,球状粒子からなる分散系を対象としており,非球状粒子分散系を対象とした研究は,国外を含め現段階では,ほとんど行われていない.そのため,キューブ状粒子分散系を対象とした動力学的なシミュレーション法の構築により,振動磁場中におけるキューブ状粒子の発熱特性の検討が可能になる. 平成29年度の申請時の段階では,キューブ状ヘマタイト粒子を合成し,粒子を光学顕微鏡により直接観察し,申請者が以前行った2次元でのシミュレーション結果と比較検討する計画であったが,キューブ状ヘマタイト粒子の実験的な研究は,現在,国外の様々な研究グループにより幅広く行われている.しかしながら,上述したようなキューブ状粒子を対象とした磁気粘性効果および振動磁場中での発熱効果に関する研究は,国外を含め現段階では,全く行われていない.新規性および独創性を追求するために,キューブ状粒子のブラウン動力学法の構築を目指すべきであると考えれる. 以上の背景により,今後の研究の推進方策は,まず,熱力学的平衡状態におけるキューブ状粒子分散系を対象としたブラウン動力学法のシミュレーション・プログラムの構築およびその結果の妥当性の検討である.その後,単純せん断流中および振動磁場中におけるシミュレーションを行う.
|