研究課題/領域番号 |
18J21020
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
岡田 和也 秋田県立大学, システム科学技術研究科 総合システム科学専攻, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | キューブ状ヘマタイト粒子 / ブラウン動力学法 / 拡散係数 / 摩擦係数 / 斥力層モデル |
研究実績の概要 |
研究計画当初では,平成31年度に棒状粒子を用いた河川・湖沼の透視度改善技術のためのブラウン動力学法に関するシミュレーション的研究を遂行する予定であった.しかしながら,平成30年度に十分なシミュレーション結果を得ることができたため,平成31年度では,主に,キューブ状粒子分散系を対象としたブラウン動力学法の確立を目標として研究を遂行した. まず,3次元系のキューブ状磁性粒子分散系を対象としたブラウン動力学法を構築するために必要とされるキューブ状粒子の摩擦係数(拡散係数)を検討した.具体的には,汎用有限要素解析ソフトウェアANSYSを用いて,立方体(キューブ状粒子)まわりの流れ場の解析を行うことにより,キューブ状粒子に作用する力およびトルクを算出した.その結果から,レイノルズ数が十分に小さい状況下において,キューブ状粒子の摩擦係数は,球状粒子の摩擦係数に修正係数を用いることにより表現することができることを明らかにした.また,球状粒子と同様に並進運動と回転運動との間にはカップリングが生じないことを明らかにした. また,期待以上に研究が進展したため,キューブ状粒子を対象としたブラウン動力学シミュレーションを確立させるために新しい斥力層モデルを提案した.他の研究者によって様々な斥力層モデルが提案されているが,より少ない計算時間で高い精度の結果が期待できるモデルを提案した.また,ブラウン動力学法のキューブ状磁性粒子分散系への適用の妥当性を検討するために,熱力学的平衡状態におけるキューブ状ヘマタイト粒子分散系を対象とし,粒子の凝集構造の転移現象に関してブラウン動力学法およびモンテカルロ法を用いて比較検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画当初では,平成31年度に棒状粒子を用いた河川・湖沼の透視度改善技術のためのブラウン動力学法に関するシミュレーション的研究を遂行する予定であった.しかしながら,平成30年度に,シミュレーション・プログラムを構築することができ,十分なシミュレーション結果が得られた.そのため,平成31年度では,棒状粒子の透視度改善技術に関する研究成果をまとめた.本研究成果は,国外の学術誌(Environmental Fluid Mechanics : IF=1.605)に掲載されている. また,当初の計画以上に研究が進展したため,キューブ状粒子分散系を対象としたブラウン動力学法の構築に取り組んだ.現在に至るまで,非軸対称粒子であるキューブ状粒子を対象としたブラウン動力学法は確立されていなかったが,キューブ状粒子の摩擦係数の推定および球連結モデルを用いたキューブ状粒子の斥力層モデルを提案し,キューブ状粒子を対象としたブラウン動力学法を確立させた. キューブ状粒子の摩擦係数に関する研究内容をまとめ米国機械学会主催のIMECE2019にて口頭発表を行った.また,研究成果は国外の学術誌(Molecular Physics:IF=1.571)に掲載されている. さらに,提案した斥力層モデルを用いて,熱力学的平衡状態を対象としたキューブ状粒子の凝集体の内部構造をブラウン動力学法により検討した.平成30年度に開発したモンテカルロ法による結果と比較することにより,ブラウン動力学法のキューブ状粒子分散系への適用の妥当性を検証した.本研究に関しても,国外の学術誌(Molecular Physics : IF=1.571)に掲載されている. 以上の研究結果により,当初の研究計画以上に研究が進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の申請時の段階では,キューブ状ヘマタイト粒子を合成し,粒子を光学顕微鏡により観察し,申請者が行った2次元系におけるシミュレーション結果と比較検討する計画であったが,キューブ状ヘマタイト粒子の実験的な研究は,現在,国外の様々な研究グループにより幅広く行われている.しかしながら,キューブ状粒子を対象とした磁気粘性効果および振動および回転磁場中での発熱効果に関するシミュレーション的研究は国外を含めて現段階では全く行われていない.新規性および独創性を追求するために,単純せん断流中におけるキューブ状粒子分散系を対象としたブラウン動力学法を構築し,キューブ状粒子の凝集構造と磁気粘性効果の関係を解明する.具体的には,粒子間の磁気的な相互作用の大きさや磁場の強さを種々に変化させ,粒子の磁気特性に基づく正味の粘度,並びに,印加磁場に基づくトルクに起因する粘度成分,粒子間相互作用に起因する力およびトルクに基づく粘度成分に分解して,凝集形態との関係性を詳細に解明する.粒子凝集体の内部構造に関しては,スナップショット,動径分布関数および配向分布関数などを用いて検討する. また,期待以上に研究が進展した場合には,振動および回転磁場中におけるキューブ状粒子分散系を対象とし,磁場の強さおよび周波数を変化させることにより,実験的には解明することができない,凝集体の形成メカニズムなどをブラウン動力学シミュレーションにより解明する.現在,一様磁場中におけるキューブ状ヘマタイト粒子を対象とした実験およびシミュレーション的研究は,多くの研究者によって幅広く行われているが,振動および回転磁場中における実験およびシミュレーション的研究は十分に行われていないため,非常に新規性のある研究トピックである.
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