研究課題/領域番号 |
18J21063
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
柚木 康弘 名古屋市立大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 時計タンパク質 / 超分子質量分析 / 核磁気共鳴法 / シアノバクテリア |
研究実績の概要 |
本年度は、主にKaiAとKaiCの相互作用に着目し、KaiCのヌクレオチド状態の影響を明らかにすることを試みた。超分子質量分析により、KaiCはATP存在下で6量体を形成し、7個のATPと5個のADPが結合していることが明らかになり、ATPの加水分解がKaiC上で進んでいる状態を捉えた。また、KaiA-KaiC複合体は、主にKaiAとKaiCが2:6のStoichiometryで複合体を形成しており、KaiAの結合に伴い、KaiC 6量体が保持するヌクレオチドが1個離脱することも見出した。さらには、ATP非加水分解性アナログにより6量体化したKaiCは、KaiAとの親和性が低下し、KaiCのATP加水分解がKaiAとの相互作用に重要であると考えられた。そこで、核磁気共鳴法を使用して、KaiAとの相互作用に直接関わるKaiCのC末端部位に着目した構造解析を行なったところ、KaiCのX線結晶構造中では内部に埋もれているためにKaiAとの結合が難しいと想定される領域が、ATP加水分解に伴って溶媒中に露出したことが示唆された。以上の結果から、KaiCのC末端部位に構造変化が誘起され、本領域が溶媒に露出することでKaiAに対する高い親和性が獲得されるものと考察した。 KaiC間のサブユニット交換に関しては、超分子質量分析法と安定同位体標識化技術を活用し、サブユニット交換の分子科学的実体を捉えることを目指した。2種類の異なるリン酸化変異体のKaiC 6量体同士を混合し超分子質量分析を行ったが、現状では、同一のリン酸化変異体からなるKaiC 6量体同士ではサブユニット交換を捉えるに至っていない。今後、異なるリン酸化変異体サブユニットから6量体を形成したKaiCを対象とすることで、KaiC 6量体間のサブユニット交換の実態を捉えることを計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、超分子質量分析装置を活用することで、KaiC 6量体中のヌクレオチド状態を明らかにした。一方で、溶液散乱法と核磁気共鳴法を用いることで、リン酸化状態とヌクレオチド状態の違いによるKaiCの構造変化を捉える基盤技術を構築することができている。こうした基盤技術をもとに、KaiCとKaiAのヌクレオチド状態やリン酸化状態にともなう詳細な相互作用様式を明らかし、KaiCのリン酸化機構に関するモデルを提唱することができている。さらには、KaiBとKaiCの複合体形成において、協同的な相互作用に重要な残基を見出し、そうした協同性が概日リズムの形成に重要であることを示すことができており、計画以上に研究は進展している。 サブユニット交換の実験においてまだその実態を捉えることができていないが、次年度以降の中性子小散乱の準備状況も申し分ない状況で進んでおり、総合的に判断して、順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、KaiAとKaiCの相互作用解析を進める過程で、超分子質量分析法によってヌクレオチド状態含めKaiC 6量体を質量計測する技術やNMRによるKai複合体の構造情報を抽出する技術も基盤を整えことができた。また、サブユニット交換を明らかにする過程で、超分子質量分析法と安定同位体標識化技術を活用することで、KaiCのリン酸化状態をキャラクタライズすることに成功している。こうした技術を統合することで、次年度以降は異なるリン酸化変異体サブユニットから形成されるヘテロなKaiC6量体を対象とすることが可能となり、ヘテロなリン酸化状態のKaiCとKaiAおよびKaiBとの相互作用解析や、KaiC 6量体間のサブユニット交換の実態を捉えることを計画している。 また、本年度コンストラクトの再検討および培養温度や培地への添加物の検討を行うことにより、10 mgオーダーで重水素化KaiA、KaiB、KaiCを調製することに成功しており、既に中性子小角散乱に供するための重水素化タンパク質の調製法を確立出来ている。次年度以降は、こうした重水素化タンパク質を利用して、中性子小角散乱により、KaiCのサブユニット交換やKaiタンパク質との複合体の構造解析を行うこと計画している。
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