近赤外OLEDにおける外部量子効率(external EL quantum efficiency: EQE)の向上および高出力化を志向する上では、近赤外発光分子自体の低いPL量子収率(PL quantum yield: PLQY)が深刻な課題となってきた。すなわち、近赤外発光分子においては、基底状態と励起状態の波動関数の混合によって無輻射失活過程が強く促進されるため(エネルギーギャップ則)、再配向エネルギーをはじめとした各因子の改善に向けて、新規分子骨格の探索が必要不可欠となる。また近年は、熱活性化遅延蛍光(thermally activated delayed fluorescence: TADF)過程を用いた、高効率深赤色~近赤外TADF-OLEDの報告が為されているが、これらのOLEDにおいても、実用駆動電流におけるEQEの大幅な低下(ロールオフ)が問題となっており、これは主に長寿命の三重項励起子の蓄積による、励起子ー励起子間あるいは励起子ー電荷間の失活に起因している。 以上のことから、本年度は、①再配向エネルギーの低減に基づく無輻射失活過程の抑制、および②逆項間交差(reverse intersystem crossing: RISC)過程の高速化に基づくロールオフの抑制、という2つの観点から、新規の電子受容骨格を用いた近赤外TADF分子:TPA-PZTCNを設計し、そのPL特性およびEL特性の検証をすすめた。実際にTPA-PZTCN分子は、729 nmにピークを有する高効率のPL発光と高速のRISC過程を示し、OLEDにおける非常に高いEQE:13.4%の実現とロールオフの抑制に成功している。また、900 nm帯の近赤外蛍光材料と組み合わせることで、734 nmと901 nmの2波長の近赤外光を用いた、オール有機の光電式脈波センシングにも成功した。
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