研究実績の概要 |
申請者は昨年度の研究により,汎用的で精密重合可能なポリチオフェン(PT)主鎖に電子欠損性の含フッ素芳香環側鎖基を導入することで,光電子特性を調整と一次構造制御を両立可能な半導体高分子の合成に成功した。しかしながら,それらの嵩高い側鎖基の影響で分子間のパッキング,主鎖の平面性が阻害され、薄膜にした際の結晶性,および吸光係数の低下が誘発された。その結果、期待されるような電子デバイス特性の向上は見られなかった。その一方で,申請者はこの一見デメリットとなる現象に深く着目し,逆に利用することで近年注目を集める伸縮性を有する半導体高分子開発に向けた,新たな分子設計指針の構築を起草した。そこで本年度は,分子の平面性,結晶性を阻害するような共役系分子構造を可塑剤ユニットとして用い,高性能結晶性半導体高分子の主鎖への導入を試み,それらが機械的特性,電気的特性に対してどのような影響を与えるのかを調査した。 共役構造を有するソフトスペーサーの構造として,精密重合法,および逐次的カップリング反応によりその分子鎖長,およびレジオレギュラリティーの制御が可能な3-hexylthiophene(3HT)構造を選択した。主鎖骨格としては,有機薄膜トランジスタへの応用で高いホール輸送性能を示すことが報告されているdiketopyrrolopyrrole (DPP)誘導体を選択した。種々の異なるレギオレギュラリティー、および鎖長を有する3HTオリゴマー(O3HT)を合成したのち、それらの両端をスタニル化、スティレカップリング重縮合により共重合することで目的とする共役オリゴマースペーサーを主鎖に有するポリマーを得た。結果として、よりフレキシブルなO3HTを導入したポリマーは標準サンプルと比較して遜色ない良好なホール移動度を維持しつつ、伸長に対する耐久性が大幅に向上することが明らかになった。
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