ミナミキチョウ(ミナミ)とキタキチョウ(キタ)には、2系統の細胞内共生細菌ボルバキア(wCIとwFem)が感染している。wCIに単感染している個体(以下、単感染個体)では細胞質不和合が起こり、wCI・wFemに重複して感染している個体(以下、重複感染個体)ではメス化が起こっていることが明らかになっている。先行研究から、ミナミからキタへwCIとwFemが侵入した際に、mtDNAの遺伝子浸透が少なくとも2度起きたことが明らかとなっている。昨年度までの結果から、この遺伝子浸透にはキタとミナミ以外の種が関与している可能性が示された。本年度ではこのことを検証するために、2015年-2020年にかけて20地点で採集したキタとミナミの合計261個体について、mtDNAと核DNAの塩基配列を用いて分子系統解析を行った。このうちmtDNAの分子系統解析に関しては、Genbankに登録されているEurema属のCOI領域の配列データも加えて解析を行った。 核DNAによる分子系統樹は、ボルバキアの感染の有無に関わらず、キタとミナミの種ごとにクレードが形成され、ボルバキアの感染ステータスは核DNAへ影響を及ぼしていないことが明らかとなった。一方、mtDNAによる分子系統樹では、「ミナミとキタのボルバキア感染個体からなるグループ」と、「ミナミとキタのボルバキア非感染個体からなるグループ」の2つのグループに分れた。また、「ミナミとキタのボルバキア感染個体からなるグループ」の中には、配列データとして加えたEurema adaとE. lacteolaが含まれた。これらの結果から、これまでキタとミナミの2種間で起きたと考えられていた種間交雑によるmtDNAの遺伝子浸透には、キタやミナミの他に、E. adaやE. lacteola含む、少なくとも4種が関わっていることが明らかとなった。
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