研究課題/領域番号 |
18J21099
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
佐藤 光桜 東京理科大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | CFRP / 長期耐久性 / 有限要素解析 / 耐熱樹脂 / 連続体損傷力学 / 粘弾性 |
研究実績の概要 |
本研究は,さまざまな負荷・温度環境を経験した場合の耐熱CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の高温耐久性を議論するため,一方向耐熱CFRPの横方向引張破壊に関する耐久性評価を研究の目的としている.一方向CFRPの横方向引張破壊は,CFRP積層板の最初期の損傷であるトランスバースクラックの発生に直結する重要な役割を担っており,これを把握することがCFRP構造物の耐久性の確保へつながる.CFRPの高温耐久性を議論するためには,CFRPの構成要素である繊維と母材樹脂の温度・時間依存力学特性の他に,繊維/樹脂間の界面の力学特性も把握が必要となる.本研究では界面および樹脂の力学特性を取得した上で,マイクロスケールの数値解析を実施して耐熱CFRPの破壊特性を予測し,実験にてその妥当性を検証するという手法をとる. 2019年度では,母材樹脂の粘弾粘塑性特性と損傷特性を取得するために,樹脂供試体に対して様々なひずみ速度での引張試験,クリープリカバリー試験,応力緩和試験を実施し,これらの特性を用いて,さまざまな力学的負荷に対して包括的に適用可能な母材樹脂の非線形粘弾粘塑性構成則を確立した.また,樹脂構成則の確立に伴い,上述の実験結果との比較を繰り返すことで,エントロピー増大に基づく損傷則も確立した.さらに,上記の提案モデルを汎用有限要素解析ソフトに組み込み,耐熱CFRPの有限要素モデルにて,さまざまな負荷・温度条件におけるCFRPの横方向引張破壊シミュレーションを実施した.また,この試験条件に準ずる検証試験を実施し,提案モデルの妥当性を評価した.上述の研究成果は国際学会2件および国内学会2件として報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では,樹脂の力学特性取得が主な研究課題であったため,樹脂の構成則の確立に注力した.前年度において,ポリイミド樹脂の粘弾粘塑性特性と損傷特性を取得するために,樹脂供試体に対してさまざまなひずみ速度と温度での引張試験,クリープリカバリー試験,応力緩和試験を実施したが,実験データが不十分であったため,本年度でも同様の試験を実施し,データ数の確保に尽力した.既出のデータおよび追加データを用いて,様々な力学的負荷と温度に対して包括的に適用可能な樹脂の粘弾粘塑性構成則を研究計画の予定通りに確立することができた.また,樹脂構成則の確立に伴い,上述の実験結果との比較を繰り返すことで,エントロピー増大に基づく損傷則も確立した. さらに本年度では,上記の提案モデル(樹脂単体のエントロピー損傷構成則)を汎用有限要素解析ソフトに組み込み,耐熱CFRPの母材樹脂部分へ提案モデルを導入した耐熱CFRPの寿命予測シミュレーションを実施した.解析上で,さまざまな負荷・温度条件におけるCFRPの横方向引張破壊解析を実施し,CFRPが経験する負荷を考慮した,残存強度の推定に成功した.また,解析結果の妥当性を得るため,検証試験として,解析条件に準ずる負荷をCFRP供試体にかけ,一方向耐熱CFRPの三点曲げ破壊試験を実施し,そのときの残存強度を測定した.三点曲げ試験の初期損傷部では横方向引張破壊が生じるため,これを比較対象とすることができる.実験から得られた残存強度は,数値解析結果と傾向が一致したが,今後は定量的な比較をおこなう必要がある. 以上のことから,本研究課題はおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度ではCFRP供試体に対して,さまざまなひずみ速度と温度における引張試験や繰り返し負荷試験,クリープ試験などを更に実施し,他の試験条件でも解析結果の妥当性が得られるか検証する予定である.この妥当性の検証では,高分子基複合材料の耐久性において,多くの知見を有する研究者が在籍するポルト大学へ,今年8月から約3か月間留学し,研究を実施する予定である.あらゆる負荷や温度条件にて,数値解析および検証実験を実施し,耐熱CFRPの高温耐久性評価法の確立を目指す. また,本研究では数値解析による寿命予測シミュレーションにおいて,膨大な計算時間とデータ容量を必要とすることが現在課題となっているため,計算時間とコストの削減を目指すことを今後の課題としている. 解析結果と実験結果の比較検証に関する研究成果を,国内会議1件にて発表を予定している.
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