研究課題
本年度前半はオレキシン受容体作動薬が、全身炎症後の活動量だけでなく炎症性サイトカインの上昇を抑制するのか検討した。オレキシン受容体作動薬あるいは生理食塩水を連日投与した後、LPSによって低活動状態を誘導したマウスの血液を採取したところ、オレキシン受容体作動薬を投与した群ではいくつかの炎症性サイトカインの上昇が抑制されることを見出した。本年度後半はオレキシンが脳内でどのような神経メカニズムを介して全身炎症による活動量の回復を担うのかを明らかにすることを目的とした。免疫染色の結果から標的部位として考えられた延髄縫線核のセロトニン作動性ニューロンを人為的に興奮させることでLPS投与後の活動量を回復させるのか検証した。まず、セロトニン作動性ニューロン特異的にCreを発現するマウス(ePet1-Cre)とCre依存的にhM3Dq受容体を発現させるマウスを交配させたダブルトランスジェニックマウスを作成した。hM3Dq受容体は人工リガンドCNOによって活性化されるため、このマウスにCNOを投与することでセロトニン作動性ニューロンのみを興奮させることができる。LPS投与と同時にCNOあるいは生理食塩水を投与したマウスの活動量を観察した結果、CNOを投与した群での有意な活動量の回復作用は認めなかった。このマウスでは、縫線核のすべてを活性化させるため、縫線核の中でも部位特異的に活性化させた場合とは違う結果になることも考え得る。組織学的解析により特に主要なターゲット部位と考えられた延髄腹側の縫線核のみを活性化させることが、活動量の回復を担うのか来年度以降取り組んでいく。また、これらの実験と並行して、延髄縫線核近傍の延髄腹内側ニューロンが脊髄前核に投射し、マウスの行動を制御していることを見出した。さらに狂犬病ウイルスベクターを用いてこれらのニューロンの上流を同定することができた。
2: おおむね順調に進展している
オレキシン受容体作動薬が炎症性サイトカインの抑制効果を持つことを見出せた。ダブルトランスジェニックマウスを用いた縫線核のみの人為的活性化では実際にオレキシンが縫線核のセロトニン作動性ニューロンのみで全身炎症を制御しているとは限らないことが示唆された。延髄縫線核に限局してウイルスベクターを導入する技術には成功しており、来年度以降は延髄縫線核のセロトニン作動性ニューロンを特異的に活性化する実験まで進展すると考えられる。また、マウスの行動を直接制御する延髄腹内側ニューロンの上流を見出したことで、今後、延髄とオレキシン作動性ニューロンの関係を明らかにするうえで重要な実験が完了した。
平成31年度前半に延髄縫線核を特異的に活性化することで全身炎症後の活動量の回復作用を示すのかを明らかにする予定である。論文執筆は開始しており、この実験が完遂し次第、論文投稿をする予定である。さらにマウスの行動を制御する延髄腹内側の抑制性ニューロンは、オレキシン作動性ニューロン脱落マウスで見られる情動脱力発作の下流であると考えられる。これらの神経回路の上流を探索していくことでオレキシンと行動の関係について明らかにしていく予定である。
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