当初の目的は、オレキシンがマウスの全身炎症後の活動量の回復を担うメカニズムを明らかにすることであった。Fos陽性細胞の探索から、オレキシンが延髄腹側の縫線核を活性化させることで、体温の上昇など自律神経機能を保ち全身炎症後の回復を担うのではないかと考えられた。しかし、前年度までの実験で、単一の神経核だけで説明するのは難しいと考えられた。そのため、薬理学的な現象論にとどめて論文をまとめ、投稿することにした。オレキシン過剰発現マウスでのエンドトキシン投与後の活動量のデータを新たに追加し、論文投稿する準備をしている。 全身炎症時のみならず、オレキシンが脳幹の神経核を介して行動・情動を調節するのか、神経回路レベルでは明らかになっていないことが多い。前年度から継続して、後天的なオレキシン神経の脱落によって生じる「ナルコレプシー」の主要な症状である情動脱力発作の神経回路を明らかにするための実験を行った。ナルコレプシーモデルマウスにおいて、情動脱力発作様行動が下背外側被蓋核のグルタミン作動性ニューロン→延髄腹内側のグリシン作動性ニューロン→運動ニューロンという共通の神経回路機構によって駆動されることを明らかにした。さらにこの神経回路がレム睡眠時の筋脱力にも駆動されることを見出した。 本年度はこれらの成果を主軸に論文投稿し、追加実験を経てJounal of neuroscience誌に掲載された。本研究はレム睡眠の筋脱力と情動脱力発作のメカニズムを神経回路レベルで明らかにし、レム睡眠行動障害やナルコレプシーの病態生理に迫る発見として掲載雑誌のFeatured articleに選出された。 論文掲載後も今回同定した神経回路と視床下部に局在するオレキシン神経との関係を明らかにするべく、実験を進めている。
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