今年度は、ラット脳の左右海馬の一側的な損傷/電気刺激実験を完了した。 短期記憶の指標としての行動試験は、自発的交替行動試験および場所嗜好試験を、長期記憶の指標としては、物体位置試験を採用した。試験の結果、右海馬の損傷は短期記憶を、左海馬の損傷は長期記憶を有意に低下させ、また、電気刺激による右海馬の活性化は短期記憶と長期記憶の両方に影響を与えなかった一方、左海馬の活性化は短期記憶と長期記憶の両方を有意に低下させた。これらの結果を総合すると、①短期記憶には右海馬が促進的に、左海馬が抑制的に機能し、②長期記憶には左海馬のみが促進的に機能することを明らかにした。この結果は論文にまとめ、Behavioural brain research誌に出版された。 また、現時点で右海馬の一側的な損傷が長期記憶を向上させる可能性を示唆するデータを得ており、来年度にかけて引き続き個体数を増やし、データを取得していく。 最後に、左右海馬を繋ぐ海馬交連の、短期記憶および長期記憶への貢献を探索するため、海馬交連の切断手術を行い、その後、上記と同様の行動実験を実施しした。この結果、海馬交連を介する半球間相互作用は、①短期記憶に重要であること、②長期記憶には重要でないこと、を示唆するデータを取得した。これについても来年度にかけて引き続き実験を進める。さらに、この左右どちら方向の連絡が短期記憶に重要であるかを明らかとするために、今年度は光遺伝学を用いるための実験系を構築した。来年度にはこちらの実験も進め、結果を得る予定である。
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