研究課題/領域番号 |
18J21135
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松葉 義直 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 長周期波 / 非線形干渉 / 砕波 / 沿岸過程 |
研究実績の概要 |
沿岸部での長周期波の発達・減衰過程を再現しうる次世代型波浪推算モデルの構築のためには,長周期波の挙動の詳細な把握が極めて重要である.そこで本年度では,複雑な海岸地形を有する西湘海岸における2017年台風21号による被災時の波浪観測データについて分析を行い,長周期波の発達過程や沿岸波浪への影響を分析した.また,波崎海岸において独自の長期遡上観測システムを構築し,長期の波浪観測をスタートさせた. 得られた主な成果としては以下のとおりである. 1. 沖合では入射波が8mを越える高波浪が発達しており,長周期波も報告されている中では最大クラスの2mを越える大きさになっていた.この長周期波は沿岸では砕波によって減衰した入射波と同程度の大きさになっており,沿岸での高波被害に大きく影響していたことが分かった.特に,沿岸ではこの長周期波による水位変動が無視できず,長周期波の谷では水深の局所的な低下により砕波が早まり入射波が大きく減衰した一方で,その峰の上では水深の増大により砕波が遅れていた.長周期波の存在が沿岸に高波浪を伝播させる働きがあることをが明らかになり,さらにこの効果は高波浪の来襲回数を増大させていることが分かった. 2. 沿岸方向で観測された長周期波を比較したところ,比較的周期の長いうねり成分が屈折により集中し,かつ緩勾配の地形を有している観測地点では長周期波が顕著に発達していることが周波数解析により明らかになった.位相平均数値モデルからは本台風における被災箇所でも同様のうねりの集中と緩勾配地形が確認されており,長周期波が西湘海岸での大規模被災に大きく影響したことが示唆された. また,2019年台風15, 19号来襲時の西湘海岸での波浪観測データも含めて入手しており,さらに詳細な波浪場の分析を目的として位相解像モデルを用いた分析を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に示したように,本年度では台風による高波浪時の海岸での波浪特性に関して,観測データをもとに浅海での長周期波の発達過程を示すとともに,長周期波が海岸での波浪増大に寄与する過程を明らかにした.これらの研究成果は,最終的な目標となる沿岸波浪の予測モデルの開発において,防災上重要性が高く再現が必要な諸現象を明らかにしたものであり,大きな知見を得ることが出来たといえる. さらに,本年度では二つの強大な台風(15, 19号)が関東地方に上陸したことを受け,それら台風による被災調査や要因分析を進めている.詳細な現象理解を目的として,位相解像数値モデルによる検討も進めることが出来ている.これは従来の計画では最終年に予定されていたものであったが,特に台風19号は観測史上最大クラスの台風であったため,その重要性を鑑み,本年度に詳細な分析を進めている. また,並行して,波崎海岸において監視カメラを用いた高解像撮影動画による独自の波浪観測システムを構築して,長期の波浪観測をおこなうことに成功している,今後このデータの解析によって海岸長周期波に関する新たな知見が得られることが期待される. 以上の理由により,細かい点においては当初計画していた流れとは異なるが,観測の状況やイベントの発生に合わせた対応をしたうえで着実に研究を進めることが出来ており,全体としてみればおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては,2019年の台風15, 19号の沿岸高波浪特性に注目し,当時の観測データと位相解像数値モデルによる再現結果から,遡上痕跡高調査結果を説明しうる長周期波の挙動を分析する.本研究では特に,純粋な三次元方程式を解くモデルに近い多層型の準三次元モデルを用いることで,沿岸波浪場の正確な再現を目指す.この結果は最終的なアウトプットとして目指す新しい数値モデルとの検証データとしても用いることとする. また,波崎海岸における約1年間にわたる長期観測データから,長周期波発達・減衰と地形・沖波条件との整理,およびそれらと最大遡上高との関連を整理する.これにより,様々なケースにおいてその沿岸過程がどう決定づけられていったのかを詳しく分析する予定である. 以上の複数の分析から,長周期波の発達を再現可能な沿岸波浪モデルの効率化において正確な導入が必要な現象を整理したうえで,モデルの構築をすすめる.
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