本年度では,沿岸部で特に発達する長周期波が高波浪時の遡上に対しどのような影響をもたらすのかについて,2019年台風15・19号来襲時の西湘海岸における波浪観測・数値再現と,茨城県波崎海岸において行った沿岸波浪および遡上の長期観測結果をもとに分析を進めた.得られた主な成果は以下のとおりである. 1.西湘海岸では,2019年台風19号来襲後に最大で13 mの高さの遡上痕跡高が観測され,台風15号来襲後においても最大で7.5 mほどであった.また,波浪観測データからは,台風19号来襲時には波高8 m以上の入射波と波高2 m以上の長周期波が確認され,双方の遡上への寄与が示唆された.数値モデルを用いた分析からは,台風15号のケースでは最大遡上は短周期波の屈折による集中によって引き起こされた一方,台風19号のケースでは,沿岸方向に捕捉された長周期波の局所的集中が最大遡上を引き起こした可能性が示唆された.特に長周期波による水位変動は短周期波の砕波減衰にも影響し,長周期波の増幅箇所で短周期波の増幅が生じていることがわかった. 2.波崎海岸での長期観測からは,幅広い海象条件での遡上データを得ることが出来た.長周期波は主に拘束波として発達したことが示唆された一方,その長周期波は砕波帯内で顕著に減衰していることがわかった.特にこの減衰は周波数に依存しており,気象擾乱時にはより周期の長い長周期波が大きな遡上を引き起こしうることがわかった.また,拘束波の発達に影響する沖波の周波数分散および方向分散の双方の長周期波遡上への影響を初めて実海岸で検証した.結果として,それら二つのパラメータの考慮により長周期波遡上のより正確な予測が可能になることが示唆された.
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