研究課題
三重項-三重項消滅に基づくフォトン・アップコンバージョン (TTA-UC) は、低いエネルギーの光子を高いエネルギーの光子に変換する方法論である。本研究では一重項-三重項遷移 (S-T遷移) を示す重金属錯体に焦点を当て、近赤外光から可視光への TTA-UC の高効率化と応用を目指している。これまで、 S-T 遷移を示す重金属錯体は励起状態の寿命が短く、三重項エネルギー移動 (TET) を効率的に起こせないという問題があった。昨年度は、 S-T 遷移を示す Os 錯体に対し長寿命な励起状態を示すペリレンを連結させ、分子内 TET に基づく三重項励起状態の長寿命化を行った。その結果、有機溶媒中において TET 効率を最大化することに成功した。また、 UC 色素を適切なポリマーと複合化することで、オプトジェネティクスへの応用が可能なヒドロゲル UC 材料の開発にも成功した。本年度は、連結部分を変えた錯体を合成し評価を行った。その結果、連結部分にフェニル基を用いることで、ペリレン部位に局在化した三重項励起状態の失活を抑制できることが明らかとなった。これは、 Os の重原子効果がペリレン部位にまで及んでいることと関係していると考えられる。従って本研究により、 Os の重原子効果を考慮した連結部分の設計が必要であることが示された。また、近赤外-可視 TTA-UC を固体状態で実現する上で問題となっていた三重項増感剤と発光色素の相分離を解決するために、増感剤と発光体からなる金属有機構造体 (MOF) の開発を行った。発光体と S-T 遷移を示す Os 錯体の分子サイズ、エネルギー準位、配位構造を最適化し、 Os 錯体が均一に導入された MOF を作製した。最終的に、ほぼ定量的な TET を示す MOF の作製に成功し、近赤外光-可視 TTA-UC に成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、色素を連結させた Os 錯体の発光特性に対して連結部分の構造がもたらす影響を評価した。その結果、連結した色素に対する Os の重原子効果を考慮した分子設計が必要であることが明らかとなった。また、 TTA-UC において固体状態での三重項増感は通常困難となるが、空間の設計が比較的容易な MOF を用いてこの問題を解決し、固体状態でのほとんど定量的な TET と近赤外-可視 TTA-UC に成功した。これらの成果は、本研究の目的である近赤外-可視 TTA-UC の高効率化とその応用に向けた大きな進展といえる。したがって、当初の予定以上に進展していると考えられる。
これまでの研究において、近赤外-青 TTA-UC を高効率化する三重項増感剤の開発に成功した。しかし、依然として発光体から三重項増感剤への逆エネルギー移動の抑制は達成されていない。従って今後も本年度に引き続き、二つの色素間の連結構造を変化させた分子の合成とエネルギー移動効率・発光寿命の評価を行っていく。加えて、連結させる色素を変えていき、エネルギー準位の調節も試みる。以上より、発光体から増感剤への逆エネルギー移動が起きにくい三重項増感剤の開発を行う。また、重金属を変えた場合に、増感剤の励起状態の寿命がどのように変化するかについても調べ、連結された色素に対する重原子効果の詳細を明らかにする。さらに、 TTA-UC をバイオロジーに応用するために、色素の構造と細胞毒性の関係について評価を行う。色素に対する化学修飾や、色素と生体適合性材料の複合化によって細胞毒性がどのように変化するかを調べていく。最終的に、生体適合性のある UC 材料の開発を行い、近赤外-可視 TTA-UC の生体内への応用を実現する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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