研究課題
本研究課題は、オミクス手法を用いてヨコヅナクマムシのDNA損傷修復過程を包括的に理解することを目的としている。本年度はストレスとしてガンマ線を選択し曝露後の個体の経時的トランスクリプトーム解析と、ダメージ定量手法の条件検討を行なった。本実験以降の詳細は以下の通りである。1. ガンマ線照射個体の経時的遺伝子発現解析 : DNA損傷因子として放射線 (ガンマ線)を挙げ、曝露後24時間にわたる経時的なRNA-Seq解析を実施した。具体的には、ヨコヅナクマムシの卵の半致死量である500 Gyに成体を曝露し、24時間にわたってサンプリングを行いトランスクリプトーム解析を実施した。情報学解析によって曝露後6時間と9時間の間でトランスクリプトームのプロファイルに大規模な変化が観察された。6時間以内ではDNA損傷経路として知られる非相同末端結合経路が誘導されていること他、抗酸化経路も誘導されていることから、細胞内で酸化ストレスが発生したことによってDNA損傷が発生したと考えられる。さらに、ガンマ線曝露直後に遺伝子発現が急激に誘導される遺伝子ファミリーを見出した。この遺伝子ファミリーは既知のタンパクと類似性を示さなかったことから、クマムシ特有のストレス応答性遺伝子として今遺伝学・生化学実験の候補とした。2. ダメージ定量について : 過度のストレスへ曝露された際のクマムシの細胞・個体へのダメージを調査すべく、まずは行動性の定量を検討した。実験手法の検討のために、ヨコヅナクマムシを紫外線へ曝露し (2.5kJ/m2、半致死量に相当)、72時間にわたって行動を示す個体数を集計したところ、曝露後2-9時間では有意に行動性の減少がみられた。これらはこの期間中に細胞レベルのダメージが蓄積している可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定であった個体レベルのダメージの指標として行動性を使用し、紫外線への応答を調査した。また、2019年度に実施予定であった経時的トランスクリプトーム解析の一項目であるガンマ線応答を実施した。
本年度は昨年度の結果を踏まえ、以下の調査を進める(1) 他ストレスの応答の観察およびガンマ線への応答との比較: 2018年度に実施したガンマ線曝露個体の経時的なトランスクリプトーム解析に引き続き、乾燥ストレス曝露後の経時的トランスクリプトームシーケンスを実施し、これらの発現プロファイルの比較を行う。(2) クマムシ特有のストレス応答性遺伝子ファミリーの機能解析: ガンマ線曝露個体のトランスクリプトーム解析によってストレス曝露直後に発現が誘導されるクマムシ特有の遺伝子ファミリーを特定した。本年度はこの遺伝子ファミリーの機能解析へ向けて、遺伝学・生化学の両面から調査を進める。(3) 対象ストレスによる細胞ダメージの定量手法の確立および実施: 昨年度の行動性定量による個体レベルのダメージの蓄積に引き続き、細胞分子へのダメージの観察を目的に、DNA損傷のおよびタンパク質の酸化の定量手法の検討・実施する。
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Journal of Visualized Experiments
巻: 137 ページ: e57615
10.3791/57615