研究課題
本研究課題は、オミクス手法を用いてヨコヅナクマムシのDNA損傷修復過程を包括的に理解することを目的としている。本年度は昨年度に実施したストレス曝露の条件検討に従い経時的トランスクリプトーム解析および同定した新規抗酸化遺伝子の機能解析を行なった。本実験以降の詳細は以下の通りである。1. 紫外線照射個体の経時的遺伝子発現解析 :これまで放射線および過酸化水素をDNA損傷因子としてを挙げていたが、同様の効果を示しアクセスしやすいことから紫外線を使用した。本年度は紫外線 (UVC)曝露後72時間にわたる経時的なRNA-Seq解析を実施した。具体的には、ヨコヅナクマムシの卵の半致死量である2500J/m2に成体を曝露し、72時間にわたってサンプリングを行いトランスクリプトーム解析を実施した。情報学解析によって曝露後3時間と6時間、そして24時間と36時間の間でトランスクリプトームのプロファイルに大規模な変化が観察された。ガンマ線照射同様、3時間以内ではDNA損傷経路として知られる非相同末端結合 経路が誘導されていること他、抗酸化経路も誘導されていることから、細胞内で酸化ストレスが発生したことによってDNA損傷が発生したと考えられる。また、昨年度同定した新規遺伝子ファミリーも紫外線応答で誘導されていることから、ストレス応答性遺伝子として機能解析を実施した。2. 新規抗酸化遺伝子の特定先述の通りストレス応答生遺伝子候補をオミクス解析によって特定したため、機能解析を進めた。GFPタグされたg12777遺伝子をヒト培養細胞で発現させたところゴルジ体への局在が明らかとなった。この発現細胞を過酸化水素に曝露したところ、GFPのみを発現する細胞より有意に耐性の増加が見られた。これらは、この遺伝子ファミリーが新規の抗酸化遺伝子であることを示している。
2: おおむね順調に進展している
研究員は本年度DNA損傷因子としてこれまで検討していたガンマ線に加えて紫外線 (UVC)も検討し、高線量のUVCを曝露したヨコヅナクマムシの経時的なトランスクリプトーム解析を進めた。昨年度実施したガンマ線曝露のデータと比較し、クマムシでは酸化ストレス経路が大規模に誘導されていることを明らかにした。また、緩歩動物門にのみ保存される新規遺伝子ファミリーが紫外線とガンマ線、そして乾燥の三条件で発現が誘導されていることを確認し、機能解析の結果ゴルジ体に局在する抗酸化に関わる新規遺伝子であることを明らかにした。これらを踏まえ、研究員は期待通りの研究を実施したと言える。
昨年度は酸化ストレス誘導因子として紫外線曝露を実施したが、今後はDNAへのダメージのみを検証するためにブレオマイシンの曝露を検討する。また、新規抗酸化遺伝子の活性メカニズムを解明すべく、活性中心と思われる領域の変異体を作成し、Loss of functionが見られるか検証する。完了次第論文執筆を進める。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
BMC Developmental Biology
巻: 19 ページ: 1-9
10.1186/s12861-019-0205-9