研究課題/領域番号 |
18J21186
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀米 俊一 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 間接検出 / 矮小楕円体銀河 / ベイズ推定 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度までで新たに開発した矮小楕円体銀河の暗黒物質分布推定モデルに基づき、有望な三つの矮小楕円体銀河についてその暗黒物質分布を推定した。 暗黒物質(Dark Matter, DM)は物理学上の大きな未解決問題の一つである。DMの検出法の一つである間接検出法は、重要なDM候補であるWIMPに感度があること、新たな望遠鏡の開発によりより一層の感度上昇が見込まれることなどから、注目を浴びている。特に矮小楕円体銀河(dSph)は有望な観測対象として知られ、精力的に研究がなされている。一方で、dSphを用いた間接検出法にはdSphの暗黒物質分布の不定性に由来する誤差が存在し、観測の妨げとなっている。具体的には、暗黒物質分布はdSphに属する星の運動を分光望遠鏡によって観測することで決定されるが、この際dSphに属さない余計な星を誤ってdSph星の同定してしまうと、大きな誤差を発生させる。 本研究では、この暗黒物質分布の誤差を低減しより確実な間接検出法の推定結果を目的として、より詳細なdSphの暗黒物質分布推定モデルを構築し、それと最新のデータを合わせた最も信頼できる暗黒物質分布推定を行う。前年度までの研究成果により、モデルの定義及び検証が完了し、我々の構築したモデルが有効に当該誤差を低減させることを検証した。 本年度は、構築されたモデルを実データに適用すべくパラメータの再定義を行ったうえで、現在までで入手できるデータを用いて、特に有望と考えられている主要な三つのdSphに対して暗黒物質分布の推定を行った。その結果、得られた暗黒物質分布は従来までの推定値と矛盾しない範囲に収まり、余計な星の混入効果を考慮した上でも暗黒物質分布は大きく変化しないことを理論的に保証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、前年度までで構築したモデルを実データに適用し、実際の暗黒物質分布を計算することを目標としていた。実際には、モデルを実データに適用する段階に入った際、収集した実データに存在するバイアスを考慮する必要があることが判明した。具体的には、星の観測が空間的に一様に行われないことに起因する選択バイアスについて考慮する必要があったが、当初のモデルはこのバイアスの影響を受けるものであった。 本年度の研究では、尤度関数の定義を再検討し、推定モデルの尤度関数及びパラメータを再定義することにより当該バイアスの影響を取り除くことに成功した。これにより、当初予定していた実データを用いた暗黒物質分布推定を予定通り行うことができ、具体的な推定値を計算することができた。また、この副産物としてより直感的に理解しやすいパラメータを定義することが可能になり、理論的にも推定モデルの整備が進んだ。このため、本研究の進捗状況はおおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として挙げられるのは、当初の研究計画に則った、次の二つである: ・現在データが入手可能な他のdSphに対しても同様な解析を行い、余計な星の混入効果により過剰・過少な暗黒物質分布が推定されているものがないかを洗い出し、信頼できる暗黒物質分布の一覧表を作成する。これにより、間近に迫った矮小楕円体銀河の観測にむけて、間接検出法から得られる科学的成果を明確にし、実験家に対する具体的な提言を行うことができる。 ・より柔軟かつ現実的なモデルを定式化し、それに基づいた解析を行う。具体的には、星の速度分布の非等方性パラメータについて、動径方向依存性を持たせたモデルにより解析を行い、推定結果に影響するかを確認する。本パラメータの推定誤差は余計な星の混入効果による誤差と相関することが本年度の研究で判明した。本研究の目的である間接検出法の推定誤差の低減を達成するためには、さらに詳細なモデルによる推定結果の比較検討を行い、非等方性からくる誤差の大きさを正確に見積もっておくことが必要である。
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