間葉系幹細胞(MSCs)は,高い自己増殖能と多分化能・免疫制御能などを有しているため,様々な病態に対する細胞療法の細胞源として注目されている.しかしながらMSCsは接着継代培養を繰り返すことで遺伝子発現・多分化能など幹細胞としての性質が変化することが報告されており,安定してMSCsの性質を維持する新規培養法が求められていた.我々はこれまでにMSCsの幹細胞性を維持・回復する新たな振盪培養法を報告したが,一部の遺伝子発現が回復しないことも明らかとなった.そこで本申請では,MSCsが部分的に神経堤由来細胞から発生することに着目し,神経堤幹細胞培地を用いて振盪培養し作製したMSCs細胞塊の性質を検証した.結果、MSC維持培地と比較して高い幹細胞関連遺伝子の発現が確認でき,長期培養後でも多分化能が回復することを明らかにした.次にMSCs細胞塊をラット大腿骨欠損モデルに移植することで,骨再生能を評価した.術後3日の大腿骨欠損部において,接着細胞移植群と比較してMSCs細胞塊移植群で有意に多くの移植細胞を認めた.さらに術後3週間において,接着細胞移植群と比較してMSCs細胞塊移植群で有意に高い骨密度を示す硬組織形成を認めた.過去の研究で,未分化なMSCsを移植することで骨欠損部周囲の細胞を動員して骨再生を誘導することが報告されている.そこでMSCs細胞塊の免疫関連遺伝子を解析したところ,MSCs細胞塊は低い炎症マーカーと高い抗炎症・免疫制御マーカーの発現を示した.このことよりMSCs細胞塊は効率的なMSCsの移植を可能とし,さらに骨欠損部での免疫制御をはじめとした周囲組織に働きかけることで骨再生を効果的に誘導することが示唆された.以上の結果から,我々が開発した振盪培養法に神経堤幹細胞培地を応用することで作製したMSCs細胞塊は骨再生療法の新たな生体材料として有用である可能性が示された.
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