研究実績の概要 |
【背景】Mizoroki-Heck 反応は遷移金属触媒存在下、高い反応効率と官能基許容性を有し、多置換アルケンを合成する最も有効な手法の一つとして様々な分野で使われている。その一方で、望まない β-水素脱離反応による異性体の副生や、一般に E/Z 選択性の制御が困難であるなどの問題が残されている。そのため、これらの原因となる旧来の遷移金属へのハロゲン化物の酸化的付加を回避する新たな反応デザインが求められている。そこで我々は、種々のアミンから容易に調製が可能なアルキルピリジニウム塩(Katritzky 塩)を用い、C(sp3)-N 結合切断を介したアルケンのラジカル型官能基化反応の開発に着手した。 【結果および考察】反応条件を種々検討した結果、室温での可視光(455 nm、青色 LED)照射下、1 mol% の市販の光レドックス触媒の作用によりフェニルアラニンから合成した Katritzky 塩が p-メトキシスチレンと高収率にて反応することを見出した。さらに光触媒の選択(Ir もしくは Ru 錯体)によって、生成物の E/Z 選択性を制御できることがわかった。 基質一般性について、様々なアミノ酸から容易に合成できるKatritzky 塩が反応に適用でき、高収率的かつ高立体選択的にて生成物を得ることができた。また、アルケンについて、メトキシ基、メチルチオ基やtert-ブチル基を有するアルケンが高い反応性を示し、NH2 と OH のような酸性プロトンを有する官能基も本反応に許容される。さらに、F, Cl, Br などのハロゲン置換基を有するアルケンも応用可能である。本研究の成果は Chem. Eur. J. 誌に掲載された(Chem. Eur. J., 2019, 25, 5433-5439)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、私は可視光下でのC-N 結合切断型立体選択的なアルケンの官能基化反応の開発に集中した。Mizoroki-Heck 反応は遷移金属触媒存在下、高い反応効率と官能基許容性を有し、多置換アルケンを合成する最も有効な手法の一つとして様々な分野で使われている。その一方で、望まない β-水素脱離反応による異性体の副生や、一般に E/Z 選択性の制御が困難であるなどの問題が残されている。そのため、これらの原因となる従来の遷移金属へのハロゲン化物の酸化的付加を回避する新たな反応デザインが求められている。私は、種々のアミンから容易に調製が可能なアルキルピリジニウム塩(Katritzky 塩)を用い、C(sp3)-N 結合切断を介したアルケンのラジカル型官能基化反応の開発に成功した。また、適切な光触媒を選択するだけでアルケン生成物のE/Z選択性を効率的に制御できます。本手法は、天然物や医薬品、機能性分子に多く存在するアミノ酸誘導体の利用法に新たな道を拓いた。本研究の成果は Chem. Eur. J. 誌に掲載された(Chem. Eur. J., 2019, 25, 5433-5439)。上述のように、私は Mizoroki-Heck 反応を補完するだけでなく、従来の遷移金属触媒を必要とせずにアミノ C-N 結合を機能化するための有望な方法を例示し、順調に研究を展開している。
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