本研究は原子スイッチを利用して固体電解質に封じ込めた単分子接合を作製することを目的としている。前年度までに固体電解質内部での金属フィラメントの構造制御に関しての知見を集め、また分子を固体電解質内部に導入する手法に関して、Ta2O5薄膜の成膜条件の調整によって酸化物薄膜内部の空孔の大きさをアセチレン分子の導入に最適化した。本年度においては固体電解質中でのアセチレン分子と金属フィラメントによる単分子接合の形成を示すことを目的とした。前年度にアセチレン分子の導入に最適化したTa2O5型の原子スイッチのサンプルを用いて極低温振動分光計測システムにより、アセチレン分子吸蔵時に形成される状態の組成の解明を試みた。 最初に原子スイッチをアセチレン雰囲気で動作させ、銀フィラメントの形成と破断を繰り返した。アセチレン雰囲気の場合にON状態とOFF状態のどちらとも異なる0.5G0程度の電気伝導度を持つ状態が観測されることを確認した。また、伝導度の分布と動作電圧の値を真空条件の場合と比較することで原子スイッチの動作機構に対してアセチレン分子が影響を与えていないことを明らかにした。 続いてチャンバーを液体ヘリウムによって冷却することによりアセチレン分子に由来する伝導度状態で固定し、振動スペクトル計測を行った。計測によって得られたスペクトルの解析によって金属表面に吸着したアセチレン分子に由来する振動モードが検出され、これによりアセチレン分子による単分子接合が形成されていることが明らかになった。また、計測時にフィラメント構造がわずかに揺らぐことにより伝導度と振動エネルギーの変調が発生することが明らかとなった。アセチレン分子のπ軌道と金属フィラメントの相互作用がフィラメント構造の揺らぎに伴い変調されるためと結論づけた。以上、原子スイッチを使用して固体電解質にアセチレン分子接合を封じ込めることに成功した。
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