研究課題/領域番号 |
18J21240
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小柳 円花 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 末梢神経障害 / 抗がん剤 / シュワン細胞 / ドラッグリポジショニング |
研究実績の概要 |
(1)タキサン系抗がん剤 (パクリタキセル/ドセタキセル) 処置後の脱分化型シュワン細胞において発現増加したgalectin-3 (Gal-3) が細胞外に分泌されること、および、タキサン系抗がん剤投与後のマウスにおいては痛覚過敏反応の発現初期においてGal-3血中濃度が有意に上昇することをELISA法により明らかにした。また、各種臓器でのGal-3発現変化を検討し、増加した血漿中Gal-3が坐骨神経のシュワン細胞由来であることを確認した。 (2) 抗がん剤誘発末梢神経障害 (CIPN) 発症におけるGal-3の寄与について検討を行った。パクリタキセル誘発CIPNモデルマウスの坐骨神経でのGal-3発現および血漿中Gal-3が有意に増加するタイミングにおいて、坐骨神経へのマクロファージの浸潤が惹起されることを確認した。 また、Gal-3欠損マウスにおいては、パクリタキセル投与後の坐骨神経へのマクロファージの浸潤、および、痛覚過敏反応の発現の遅延が観察された。(1)、(2)の結果より、シュワン細胞由来のGal-3が末梢神経へのマクロファージの誘因を惹起し、これがパクリタキセル誘発CIPNの発症の一因となっている可能性が示唆された。また、マウスの血漿中Gal-3濃度が増加するタイミングが、痛覚過敏反応の発現時期と一致していることから、血漿中Gal-3はパクリタキセル誘発CIPNの発症を検知するバイオマーカーとなりうると考えられる。 (3) 京都大学ドラッグディスカバリーセンターが保有する既承認医薬品ライブラリー化合物約3000種類を用いて、分化シュワン細胞マーカーMBPの免疫活性を指標としたハイスループットスクリーニング (HTS) により、シュワン細胞の分化を促進する化合物の探索を実施した。その結果、強力なシュワン細胞の分化誘導効果を有する化合物を新たに複数種類同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、末梢の感覚神経系を構成するシュワン細胞と神経細胞の細胞間相互作用に着目して、(1) CIPNバイオマーカーの探索、(2) CIPN発症機構の解明を目的としている。また、(3) 既承認医薬品ライブラリーを用いたHTSを実施し、ドラッグリポジショニングによりCIPN予防/治療薬の探索および有効性の評価を行うことも目的としている。 (1)、(2) については、先行研究 (Imai S, Koyanagi M et al, Sci Rep 2017; 7(1): 5947) において、タキサン系抗がん剤処置後の脱分化型シュワン細胞において発現が増加することが明らかとなったgalectin-3 (Gal-3) に着目し、今年度の研究を行った。その結果、シュワン細胞由来のGal-3が末梢神経へのマクロファージの誘因を惹起し、これがパクリタキセル誘発CIPNの発症の一因となっている可能性が明らかとなった。さらに、マウスの血漿中Gal-3濃度が増加するタイミングが、痛覚過敏反応の発現時期と一致していたことから、血漿中Gal-3はパクリタキセル誘発CIPNの発症を検知するバイオマーカーとなりうる可能性を見出した。現在、この研究で得られた知見をまとめ、海外の学術誌への論文投稿の準備を進めている。 (3) については、京都大学ドラッグディスカバリーセンターが保有する既承認医薬品ライブラリー化合物約3000種類を用いたHTSを行い、シュワン細胞の分化を促進する化合物を新たに複数種類同定した。同定した薬物がシュワン細胞を分化させるメカニズムやCIPN治療薬としての有用性については、現在検討を進めている。 以上より、本研究課題は、おおむね当初の計画通りに順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
タキサン系誘発CIPNのバイオマーカー候補として見出したGal-3について、実際に京都大学医学部附属病院で治療を受けるタキサン系抗がん剤投与患者の血漿検体を用いて、血漿中Gal-3濃度の測定を行う。血漿中Gal-3濃度とCIPNの発症/回復時期や重症度などとの相関性を解析し、血漿中Gal-3のCIPNバイオマーカーとしての臨床での有用性について精査する。この臨床試験については、すでに予備検討を開始している。 また、現在、パクリタキセル処置後のシュワン細胞において発現が誘導される分子をGal-3の他にも同定しており、この分子がCIPN発症においてどのような寄与をしているのかについて検討を行う予定である。 HTSにより同定されたシュワン細胞の分化促進に寄与する1次候補薬について、推定される標的分子のsiRNAや阻害剤を初代培養シュワン細胞に処置することにより、シュワン細胞を分化させるメカニズムについて詳細な検討を行う。また、神経/シュワン細胞共培養系を用いて、タキサン系抗がん剤処置による髄鞘の脱落を抑制できるか検討を行う。培養系において有効性が確認でき次第、CIPN動物モデルを用いて、痛覚過敏反応や自発痛といったCIPNの症状や、神経伝導速度変化といった神経機能の増悪を抑制・回復させられるか評価を行う。さらに、電子顕微鏡を用いて坐骨神経におけるシュワン細胞の脱随や再髄鞘化について形態学的評価を実施する。これらの検討結果を総合的に踏まえ、1次候補薬のCIPN治療薬としての有効性を吟味する。
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