研究課題
(1) 抗がん剤誘発末梢神経障害 (CIPN) バイオマーカーの探索、(2) CIPN発症機構の解明、(3) CIPN予防/治療薬の探索のための検討を行った。(1)(2)前年度までに、タキサン系抗がん剤(パクリタキセル/ドセタキセル)の投与後に脱分化シュワン細胞から血中に分泌されるgelectin-3(Gal-3)が末梢神経へのマクロファージの誘因を惹起し、これがタキサン系抗がん剤誘発CIPNの発症の一因となっている可能性を明らかにした。今年度は、タキサン系抗がん剤の投与を受ける乳がん患者の血漿検体中のGal-3濃度の測定を行った。その結果、マウスでの検討結果と同様に、患者においてもCIPNの症状がない時に比べCIPN発症時の血中Gal-3濃度が有意に増加していることが明らかになった。さらにマクロファージ除去剤であるクロドロン酸あるいはGal-3 阻害剤をパクリタキセル投与後のマウスに投与し検討を行った。その結果、クロドロン酸とGal-3 阻害剤のいずれも、パクリタキセルによる血漿中Gal-3濃度の上昇を抑制しなかったが、坐骨神経へのマクロファージの浸潤および痛覚過敏反応を抑制した。この結果より、パクリタキセルによるCIPNの発現には、Gal-3依存的な末梢神経へのマクロファージの浸潤が大きく関与することを証明できた。(3) 昨年度に実施したハイスループットスクリーニング (HTS) により同定した、強力なシュワン細胞の分化誘導効果を持つ薬物Xを用いて検討を行った。薬物Xの処置により、DRG神経/シュワン細胞共培養系においてパクリタキセルによる脱髄が抑制されること、パクリタキセル誘発CIPNモデルマウスにおいて痛覚過敏反応が抑制されることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、末梢の感覚神経系を構成するシュワン細胞と神経細胞の細胞間相互作用に着目して、(1) CIPNバイオマーカーの探索、(2) CIPN発症機構の解明を目的としている。また、(3) 既承認医薬品ライブラリーを用いたHTSを実施し、ドラッグリポジショニングによりCIPN予防/治療薬の探索および有効性の評価を行うことも目的としている。(1)、(2) については、昨年度までの結果を踏まえ、さらなる検討を行い、パクリタキセルによるCIPNの発現には、Gal-3依存的な末梢神経へのマクロファージの浸潤が関与していることを明らかにした。さらに、CIPNモデルマウスでの結果と同様に、CIPN患者の血漿においてもGal-3濃度が増加することを確認した。現在、この研究で得られた知見をまとめ、海外学術誌へ論文を投稿中である。(3) については、京都大学ドラッグディスカバリーセンターが保有するライブラリー化合物約3000種類を用いたHTSにより同定した候補薬XがCIPN治療薬として有用である可能性を明らかにした。現在、候補薬Xがシュワン細胞の分化を促進するメカニズムについても検討を進めている。以上より、本研究課題は、おおむね当初の計画通りに順調に進行していると判断した。
タキサン系誘発CIPNのバイオマーカー候補として見出したGal-3について、約100例のタキサン系抗がん剤投与患者の血漿中Gal-3濃度とCIPNの発症/回復時期や重症度などとの相関性を解析し、血漿中Gal-3のCIPNバイオマーカーとしての臨床での有用性について精査する。また、シュワン細胞特異的なGal-3のノックダウンおよびノックイン実験により、マクロファージの誘引や痛覚過敏反応が抑制/惹起されるか検討する。HTSにより同定されたシュワン細胞の分化促進に寄与する1次候補薬について、推定される標的分子のsiRNAや阻害剤を初代培養シュワン細胞に処置することにより、シュワン細胞を分化させるメカニズムについて詳細な検討を行う(現在検討中)。また、CIPN動物モデルを用いて、候補薬の投与によりシュワン細胞の脱分化や血中Gal-3濃度の増加、マクロファージの浸潤等が抑制されるかどうかについてELISA法や坐骨神経の免疫染色等により検討する。これらの検討結果を総合的に踏まえ、1次候補薬のCIPN治療薬としての有効性を吟味する。有効性が高いようであれば、類縁化合物を合成し、特許の取得を目指す。また、HTSで同定された他の候補薬についても有効性やシュワン細胞を分化させるメカニズムについての検討を行う。
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日本薬理学雑誌
巻: 154 ページ: 241~244
https://doi.org/10.1254/fpj.154.241