研究課題/領域番号 |
18J21251
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 勇登 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 符号問題 / 有限密度QCD |
研究実績の概要 |
平成30年度はフェルミオンを含んだ系においても経路最適化法が適用可能であるかを検証するために、QCDの有効模型であるPolyakov loop extended Nambu-Jona-Lasinio模型を一様場の仮定および経路最適化法を用いることで解析した。経路を最適化する際にグルーオン場に相当する変数のみを複素化するだけで十分符号問題が緩和されることを示した。さらに作用にカットが存在し、Lefschetz thimbleがうまく求められないようなベクター型相互作用を入れた場合においてもグルーオン場およびベクター型相互作用に対する補助場のみを複素化することで相転移(クロスオーバー相転移)点近傍以外では符号問題の解消ができることを確かめた。相転移点近傍においても適切に最適化を行うことで計算可能な程度まで符号問題を改善可能であることを示した。 また経路最適化法をゲージ理論でも扱えるように拡張し、0+1次元の有限密度QCDに適用した。その際、次の二通りの場合で経路最適化法を適用した。(1).SU(3)の元であるリンク変数に右からSL(3,C)の元を作用させることで複素化を行い、最適化を行う。(2).先にリンク変数を対角化し、分配関数を固有値に対する積分へと変形した後で変数の複素化を行う。(1)の結果として符号問題の深刻さを表す平均位相因子を改善前に比べて1~2桁程度1に近づけることが可能であることを明らかにした。変形された多様体上で物理量の期待値をHybrid Monte-Carlo法で求め、厳密解と誤差の範囲内で一致することを確認した。また生成された配位を対角化し、その固有値の分布を(2)の結果と比較したところ、固有値の実数部分に対する分布が再現されており、Hybrid Monte-Carlo法による配位の生成がゲージ理論の場合においても問題なく機能していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はいくつかの場の理論、特に有限密度の3+1次元上の格子量子色力学(QCD)において現れる数値計算上の問題である符号問題を回避するための方法を開発し、有限密度領域におけるQCDの性質を明らかにすることを目的としている。申請時では、フェルミオンを含まないSU(2)ゲージ理論およびフェルミオンを含んだ1-linkのU(1)ゲージ理論への適用を予定していたが、それらを省略しPNJL模型および0+1次元の有限密度QCDへの適用を行った。0+1次元QCDは低次元の模型ではあるが符号問題の起源が実際の3+1次元QCDの場合と同じであり、経路最適化法のゲージ理論への拡張を確かめる上で重要である。SU(3)のリンク変数のSL(3,C)への複素化の方法を考案し、実際に符号問題が緩和されることを確認した。また物理量の期待値をHybrid Monte-Carlo法で求め、厳密解と一致することを確かめられた。1+1次元への適用も始めており、研究がおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は経路最適化法に必要なリンク変数の複素化を行う際に、SL(3,C)の元をどのように生成すれば符号問題の改善できるかを調べるともに1+1次元のQCDへの適用を進める。また高次元の格子状の理論の場合におけるフェルミオンの影響を調べるため、格子上のPolyakov-loop extended Nambu-Jona-Lasinio模型でも適用を進める。その際計算コストを下げるために、大規模疎行列の行列式を求める方法を模索し、より高次元のQCDへの適用可能性について検討する。その際複素ランジュバン法による適用も行い、両者の結果を比較する予定である。また可能であれば3+1次元QCDへの適用を行う。
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