研究課題/領域番号 |
18J21266
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浅見 慶志朗 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 鉄マンガンクラスト / LA-ICP-MS / 古環境 |
研究実績の概要 |
本研究は、鉄マンガンクラストの高時間分解能な化学層序から古環境を系統的に復元する手法として“鉄マンガンクラスト層序学”の確立を目指す。高時間分解能の化学層序から得られる大量の化学組成データを統計学的に解析することで、鉄マンガンクラストを用いた古環境復元の課題であった時間分解能の低さと、形成環境を示す地球化学的トレーサーの少なさを克服することができる。平成30年度においては、鉄マンガンクラストの詳細な化学層序を得るための準備として、鉄マンガンクラストの研磨片作成のための乾式研磨ができる環境の構築と、LA-ICP-MSによる元素マッピングのテストを行った。 ストルアス社製の研磨盤及び研磨紙を購入し、所属研究室保有の研磨機と組み合わせることで、乾式研磨が可能となった。また、LA-ICP-MS分析の標準試料として用いるために、JMn-1とNod-P-1の化学組成分析を行った。鉄マンガンノジュールである両標準物質の不均質性と吸水性を考慮して、試料粉末をそれぞれよく混ぜた後、所属研究室のXRFおよびICP-MSで分析を行い、主要元素の合計濃度が酸化物換算で100%になるように化学組成を算出した。化学分析で残ったJMn-1とNod-P-1をハンドプレスで押し固め、LA-ICP-MS用の標準試料とした。これらの準備の後、海洋研究開発機構にてLA-ICP-MSを用いた鉄マンガンクラストの元素マッピングを行った。結果、主要元素からppmオーダーの元素に至るまで、鉄マンガンクラストの成長構造を精度よく示した元素マップの取得に成功した。これによって分析試料の作成から高時間分解能の化学層序の取得までの一連の手順を確立できたため、来年度以降は試料の分析およびデータの解析を進めてゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は鉄マンガンクラストの詳細な化学層序から古環境を明らかにする事を目的として、以下の調査及び分析を実施した。 (1) 分析の対象とする試料を様々な地質条件を網羅するように選定した。また、試料が採取された海域の一つである南鳥島沖にて潜航調査を行い、周辺地質や鉄マンガンクラストの産状を確認した。 (2) 分析試料の加工からLA-ICP-MSによる元素濃度マッピングまでのプロセスを確立した。また、その分析精度も十分であることを確認できたことから、来年度以降は分析に集中して取り組むことができる。 (3) 自身が筆頭著者の論文が1本国際誌に掲載された。また、新たな論文も投稿間近であることから、研究成果の発表についても好調である。 以上より、研究の進捗状況はおおむね順調であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
LA-ICP-MSによる鉄マンガンクラストの元素マッピング分析が可能となったので、今後は試料の分析を進めてゆく。分析予定の試料は、太平洋プレート上の南鳥島沖やシャツキーライズ周辺、フィリピン海プレート上の四国海盆など、海域のバリエーションを確保しており、海域やプレート運動によってたどった軌跡の違いによる化学組成への影響を比較するのに適している。また、南鳥島沖においては、様々な水深 (1.0~5.5 km)から採取された試料を用いることで、水深の違いによる化学組成の変化を捉えることが期待される。それらのLA-ICP-MS分析を進めてゆくと同時に、年代測定のためのOs同位体比測定を行う。Os同位体比は千葉工業大学のMC-ICP-MSを用いて行う予定である。 データ解析に用いる統計ソフトのRやMATLABベースのXMapToolsと言ったソフトウェアを習熟し、LA-ICP-MS分析によるデータ習得と並行してそれらの化学組成データの解析を進める。解析には主に独立成分分析を用いる予定である。 4月に分析予定の鉄マンガンクラストが採取された南鳥島沖にて調査航海が行われるため、該当海域の地質把握や鉄マンガンクラストの産状観察、追加試料獲得のために参加する。また、8月の国際学会でその時点における研究成果を報告し、研究に対する指摘を得る。
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