研究課題/領域番号 |
18J21267
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
工藤 将馬 立命館大学, スポーツ健康科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | モデリング / 剛体リンクモデル / 自由度 / 汎化性能 / 適合度 / 歩行動作 |
研究実績の概要 |
ヒトの身体動作の力学的メカニズムを解明することを目的とした研究では、身体を複数の剛体でモデル化した剛体リンクモデルや,剛体リンクモデルに筋が発揮する力の要素を加えた筋骨格モデルが用いられる.しかし,この際,屈曲―伸展,内転―外転,回旋等の運動をする関節を複数含むヒトの身体を,どの程度詳細にモデル化するべきなのかは明らかにされていない.特に多数の関節が含まれる体幹部に関して,この問題は顕著である.本年度は,ヒトの身体動作中の体幹部の運動を評価する際に適したモデルの解明に取り組んだ. 複数の関節を含む体幹部の運動を剛体リンクで表現する際、モデルの自由度(体幹部の運動を表現するモデルのセグメント数)とその適合度は単調増加の関係にある.しかし,自由度が大きいモデルはノイズなどの偶発的な変動にも影響されやすくなり,モデルの汎化性能は低くなる,そこで,モデルの適合度と汎化性能のバランスを考慮に入れたうえで最適なモデルの自由度を選択する基準である赤池情報量基準(AIC)を用いて,体幹部の運動を剛体リンクで表現する際に最適な自由度を検討した.実験では,健常な男性10名を対象に,3次元動作解析システムを用いて歩行動作を測定した.体幹部を6,9,12及び21の自由度を有する剛体リンクモデルで表現した.最適化計算手法を用いて歩行動作中の体幹部の運動を各モデルで表現し,その際に生じるモデル化誤差を算出した.モデル化誤差からモデルのAIC値を算出しモデル間で比較した.その結果,9及び12自由度を有するモデルのAIC値が他のモデルに対して有意に低値を示した. 以上の結果より,歩行動作中の体幹部の運動を表現する際には,体幹部を2つまたは3つの剛体セグメントでモデル化することが,モデルの適合度と汎化性能のバランスを考慮に入れた上で最適であるという事が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 体幹部を剛体リンク系としてモデル化する際に,幾つの剛体を用いるのが適切であるかを検討した.体幹部を1 つ,2つ,3 つ,6 つの剛体でモデル化した際に生じる誤差を評価した.この成果は国際学術雑誌Gait and Postureに掲載されている. 2. 上記の成果を受け,最適なセグメント数を決定する指標として赤池情報量基準を導入し,より客観性の高いモデル化を実現する手法を考案した.この成果はInternational Society of Biomechanics in Sportsのプロシーディングとして出版されている. これらはいずれも平成30年度の課題として計画していたものである.よって本研究は概ね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度では,身体動作中の体幹部の運動を最適に表現する剛体リンクモデルを明らかにした.このことによって,分節的多動性を有する体幹部の身体動作中における振る舞いを運動力学的観点に立って解析することが可能になった.したがって次年度以降は以下の研究に取り組み,身体動作中に体幹部が担う力学的な役割を定量的に評価する. 1)平成30年度の研究に於いて構築した剛体リンクモデル及び逆動力学演算手法を用いて, ヒトの歩行動作中に発揮された身体各関節の関節モーメント,関節パワー及び関節仕事量を算出する.これらの力学的指標を用いて,歩行動作の実行において体幹部がどのような力学的役割を担っているのかを明らかにする. 2)順動力学シミュレーションを用いて歩行動作中の体幹筋群の力発揮特性を明らかにする.また,体幹筋群の筋力発揮能力を変化させた際に,歩行動作がどのように変化するのかを実験する.これらの実験を通じて,体幹筋群が歩行動作の実行にどの様な役割を担っているのか,また体幹筋群の筋力発揮能力の変化がヒトの歩行動作の実行にどの様な影響を及ぼすのかを明らかにする.
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