研究課題
加齢に伴う筋量および筋機能の低下(サルコペニア)を引き起こす要因の1つに筋の線維化が関与し、その機序に加齢に伴う血中C1q濃度の増大を介した筋内のWntシグナルの過剰な活性化が関連することが報告されている。最近、我々は高齢者の習慣的なレジスタンス運動が血中C1q濃度を低下させ、筋量の増大効果と関連することを明らかにした。しかしながら、習慣的なレジスタンス運動による血中C1q濃度の低下が筋の線維化の抑制に関与するか否かは明らかでない。そこで本研究は、高齢期からの習慣的なレジスタンス運動による血中C1q濃度の低下が筋の線維化の抑制に関与するか否かを明らかにすることを目的とした。13週齢の老化促進マウスであるSAMP1マウスを若齢安静対照群、38週齢のSAMP1マウスを高齢安静対照群および高齢レジスタンス運動群(ラダーを用いたクライミング運動を最大挙上重量の80%の重りを負荷し、1日6-8回、週3日)の3群(各群 N=10)に分け、12週間後に前脛骨筋を摘出した。若齢安静対照群と比較して、高齢安静対照群では筋の線維化面積および血中C1q濃度、筋内のWntシグナル(β-cateninタンパク発現およびAxin2 mRNA発現)、線維化のマーカーであるCollagen1A1 mRNA発現が有意に増大した。一方、高齢レジスタンス運動群は、高齢安静対照群と比較して、筋の線維化面積および血中C1q濃度、筋内のWntシグナル、線維化のマーカーが有意に低下した。さらに、血中C1q濃度と筋の線維化面積との間に有意な正の相関関係が認められた。これらの結果から、高齢期からの習慣的なレジスタンス運動による血中C1q濃度の低下は、筋内のWntシグナルの低下を介して筋の線維化の抑制に関与する可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、高齢マウスを対象に12週間のレジスタンス運動介入を実施し、習慣的なレジスタンス運動による血中C1q濃度の低下が筋の線維化の抑制に関与することを明らかにできた。また、次年度に予定していた研究課題の結果の一部も解明することができ、当初の研究計画以上に進展していると思われる。
次年度は、高齢マウスに筋損傷を惹起させ、習慣的なレジスタンス運動による血中C1q濃度の変動が筋損傷後の再生能力に及ぼす影響を検討することに加えて、本年度の結果から生じた新たな研究課題も追加で検討する予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)
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