研究課題
加齢に伴う血中C1q濃度の増大は、筋内のWntシグナルを過剰に活性化させ、筋サテライト細胞の増殖の抑制および線維芽細胞の増殖を引き起こし、筋の再生能力を低下させることが報告されている。最近、我々は高齢者における習慣的な運動が血中C1q濃度を低下させることを明らかにした。しかし、習慣的な運動による血中C1q濃度の低下が筋の再生能力の亢進に関与するか否かは明らかではない。そこで本研究は、高齢期からの習慣的なレジスタンス運動による血中C1q濃度の低下が筋損傷後の再生能力の亢進に関与するか否かを検討した。38週齢のSAMP1マウスを対象に12週間の安静飼育およびレジスタンス運動介入(ラダーを用いたクライミング運動を最大挙上重量の80%の重りを負荷し、1日6-8回、週3日)を実施し、①老齢安静群、②老齢レジスタンス運動群、③老齢レジスタンス運動+C1q投与群に分け、カルジオトキシン投与による筋損傷前、筋損傷5日、14日後に前脛骨筋を摘出した。老齢安静群と比較して、老齢レジスタンス運動群の筋損傷5日および14日後の筋横断面積は有意に増大し、筋の線維化面積および血中C1q濃度、筋内のWntシグナル(β-cateninタンパク発現)は有意に低下した。一方、老齢レジスタンス運動群と比較して、老齢レジスタンス運動+C1q投与群の筋損傷5日および14日後の筋横断面積は有意に低下し、筋の線維化面積および血中C1q濃度、筋内のWntシグナルは有意に増大した。これらの結果から、高齢期からの習慣的なレジスタンス運動による血中C1q濃度の低下は、筋内のWntシグナルの減弱を介して筋損傷後の再生能力の亢進に関与する可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、高齢マウスを対象に12週間のレジスタンス運動介入を実施し、習慣的なレジスタンス運動による血中C1q濃度の低下が筋損傷後の再生能力の亢進に関与することを明らかにできた。また、昨年度の研究結果から生じた新たな課題の一部も解明することができ、当初の研究計画以上に進展していると考えられる。
次年度は、血中C1q濃度の低下に最低限必要なレジスタンス運動の強度と期間を検討するために、高齢者を対象として12週間の低強度および高強度のレジスタンス運動を実施し、経時的に血中C1q濃度、筋量および筋質、筋力を測定する予定である。
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