従来、分子の画像観測は専ら分子回転に適応されており、分子振動に適応した例は数少ない。そこで、本研究では画像観測法をアンモニアの傘反転振動に適応するべく必要な要素を開発してきた。画像観測には、分子振動の量子状態を単離および結合することが必須である。令和1年度までに、分子振動の量子状態を単離する分子偏向器の開発を終了した。 令和2年度では偏向器で選別した量子状態を結合させるために必要な、マイクロ波光学系の構築を行った。マイクロ波の伝搬はガウシアンビーム近似により推定した。ホーンアンテナから放射されたマイクロ波が、楕円ミラーで収束されて、REMPI観測に用いる電極の間を通過するように設計を行った。この設計から必要な素子の寸法を決定し、3Dプリンターでアンテナおよびミラーの製作を行った。アンテナおよびミラーは、表面に導電性塗装を行うことでマイクロ波素子とした。作成したマイクロ波素子は、鉱石検波器を利用して動作確認を行った。 作成したマイクロ波素子を利用して、パルス状マイクロ波で励起されたアンモニアのREMPI観測を行った。マイクロ波のパルス強度やマイクロ波のパルス時間の長さを変化させることで、REMPI信号強度が変化することが確認された。この依存性は、電磁波による量子状態のコヒーレントな結合(ラビ振動と呼ばれる)の結果として理解できる。従ってイオン観測に用いる電極が存在している状況下でも、マイクロ波によるコヒーレントな量子状態の結合が可能であることが本研究で実証された。これはイメージング観測の直前まで歩みを進めたことを意味する。しかしながら、ラビ振動の減衰も確認された。マイクロ波の反射や回折による波形の乱れか、アンモニアが核スピン異性体を持つことで生じる多準位構造に由来すると考えられる。 今後はイメージング装置との合体とともに、マイクロ波とのコヒーレンスの改善が課題と考えられる。
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