研究課題/領域番号 |
18J21313
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三澤 奈々 名古屋大学, 情報学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 分子シミュレーション / 量子化学計算 / 分子動力学計算 / 混合MC/MD法 / Red Moon法 / 重合反応 / 高分子 / 有機金属触媒 |
研究実績の概要 |
(ピリジルアミド)ハフニウム(IV)触媒(Hf触媒と呼ぶ)を対象とし、α-オレフィンモノマーとして1-オクテンを、対アニオンとしてメチルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(BArF3と呼ぶ)及びテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(BArF4と呼ぶ)を対象とし1-オクテン挿入反応に関する対アニオンの影響の解析を行った。実験において、それぞれ2つの対アニオンを用いた際の違いとして、BArF4を用いた場合はBArF3を用いた場合よりも重合反応の進行が速いことが知られている。よって、高活性な触媒系設計の指針を得ることを目的として、2つのアニオン間での反応速度の違いの原因について計算化学的な解析を行った。 前年度に行ったQMおよびREMD計算を用いた解析結果から反応速度定数を算出したところ、実験と同様にBArF4の方がBArF3よりも反応速度定数が大きい傾向が再現された。実際に、QM計算ではBArF4の方がBArF3よりも活性化エネルギーが低い結果であり、またREMDからは対アニオンがBArF4の場合の方がBArF3よりもモノマーの接近頻度が高いという結果となっていた。これは、BArF3は配位力の強いMe基で、BArF4は配位力の弱いF原子で配位することが、触媒構造およびモノマーの配位に影響を及ぼした結果である。 以上の知見をもとに、1-オクテン単独重合反応およびエチレン/1-オクテン共重合反応に関して、複合化学反応シミュレーションが実現可能なRed Moon法を用いてシミュレーションを行った。その結果、1-オクテン単独重合反応においては、BArF4を用いた場合はBArF3を用いた場合よりも重合反応の進行が速いという傾向が再現された。また、1-オクテン/エチレン共重合反応においては、生成した共重合体中の組成比を実験に近い値で再現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は昨年度の成果を元に、2種の対アニオンをそれぞれ用いた際の1-オクテン挿入反応の微視的機構についてさらに詳細な反応解析を行い、新たな知見も得る事が出来た。 理論式に基づき速度定数を算出した結果実験の傾向が再現されたことから、シミュレーションの結果が現実に近いものであることが期待できる。またRed Moonシミュレーションによってオレフィン重合反応という長時間(マイクロ秒オーダー)で生じる巨視的現象の再現および観測が可能であることが示され、物理量の再現が可能であることがわかった。今後は立体制御機構についても展開が期待できる。 これらの成果を複数の学会で成果を発表し、ディスカッションを通して今後の研究指針を得た。また学会においてベストポスター賞を受賞するなどの評価を得た。
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今後の研究の推進方策 |
まず現在までの成果を学術論文として発表する。その後、これまでの知見に基づき、Hf触媒におけるオレフィン重合反応の立体制御機構の解明を目指す。特に、実験の反応条件に合わせて計算モデルを作成し、Red Moonシミュレーションを行う。そして活性点周りの立体構造や対アニオンとの相互作用等に着目し、機能性高分子の物性を制御する可能性を広げるべく計画・準備を行う。 最終的には、機能性高分子を志向したより良い反応系の提案や、計算手法の適用範囲の更なる拡大に向けて手法を改良する。最終的にRed Moonシミュレーションの成果を学術論文として纏めて発表する。
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