本研究課題では、工業的に利用されているカチオン性のピリジルアミドハフニウム触媒によるオレフィン重合反応を研究対象に、共存する助触媒由来の対アニオン の影響に着目して、その重合過程の微視的機構を理論的に解明することに主眼をおいた。特に、量子力学計算や分子動力学計算などの各種分子シミュレーション手法を駆使した研究を遂行した。 具体的には、溶媒やモノマーを含む実験に近いモデル系を作成し、Red Moon方法論を用いてオレフィン重合反応の全原子シミュレーションを行った。その結果、異なる対アニオン間での重合反応速度の違いを再現した。シミュレーション結果の解析から、触媒によるモノマー捕捉段階において対アニオンが活性点を塞ぐことによる”動的“な影響を大きく受けることを示し、それが対アニオン種に依存した重合反応速度の違いに繋がっていることを理論的に明らかにした。 さらにこうした対アニオンの”動的“な影響が高分子の成長反応のみならず停止反応に対しても影響を与えている可能性について検証を行った。Red Moonシミュレーションを用いて停止反応の速度定数を算出した結果、実験で観測されている対アニオン種に依存した停止反応速度の違いの傾向を再現した。シミュレーション結果の解析から、停止反応のほうが挿入反応に比べて活性点周りに広い空間を要することにより、より対アニオンの動的影響を受けやすいためであると推測された。 本研究により、オレフィン重合反応において高分子の物性を左右する停止反応や触媒活性に対して対アニオンがどういう機構で影響を与えるのかについて、原子レベルでの解釈が可能となった。
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