研究課題
青色(400 nm付近)で発光するHf含有ハロゲン化物シンチレータ材料であるCs2HfCl6(CHC)を出発組成とし、元素添加や置換によって高発光量・高エネルギー分解能・高速蛍光寿命を有する新規シンチレータ材料を実現することが本研究の最終目標である。上記目標の達成のため、当該年度は以下の二項目について研究を行った。1.蛍光寿命高速化の試みCHCは蛍光寿命が長い(4μs程度)ため、許容遷移のCe3+の5d-4f電子遷移発光により蛍光寿命の高速化を試みたが、Ce3+を1 at%添加したCHC(Ce:CHC)ではCe3+発光は発現しなかった。そこでCe:CHCシンチレータにおいてCe3+発光が見られなかった原因の解明を目的に、他の希土類元素をCHCに添加した際の発光を調べ、CHC母材と各希土類の発光準位の位置関係を調査した。Gd:CHCにおいて、Gd3+の4f-4f電子遷移発光が発現したことから、Ce3+の5d-4f準位の位置を推定した結果、5d準位の底がCHCの伝導帯内に存在するためにCe3+発光が発現しなかったという知見を得た。2.発光量増大の試みCHCは高い発光量を有するが、バンドギャップエネルギーをより小さくすることで発光量が増加する期待があった。CHCの塩素をヨウ素で置換するとバンドギャップエネルギーが小さくなることがすでに報告されていたため、ヨウ化物のCs2HfI6(CHI)に着目し実際に結晶育成を行った。実際に結晶を育成し調査した結果、CHIはCHCの1.2倍程度高い発光量を有し、かつ発光波長が赤橙色(650 nm)へとシフトしたことから、CHIは赤色で発光するシンチレータの中で最高の発光量を有する有望な材料であることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
当該年度は当初の計画通りに、現有の結晶育成セットアップの改良や、結晶育成用ルツボや原料粉末の購入を行った。まず、Ce3+以外の発光中心元素をCs2HfCl6(CHC)に添加した際の発光の挙動を実際に結晶育成して調査した。添加元素として、希土類元素(RE)であるPr、Nd、Eu、Gd、Tbを選択し、CHCのHfサイトに対して1 at%添加し、Cs2Hf0.99RE0.01Cl6(RE:CHC)からなる組成の結晶を得た。Pr3+、Nd3+およびEu2+はでは5d-4f発光は発現しなかったが、すべてのRE:CHCにおいて、添加した希土類元素固有の4f-4f発光が見られた。その中でGd3+の4f-4f発光の発現に注目し、Gd3+の4f基底準位がCHC母材の禁制帯内に存在することから、他の希土類元素3価イオンの4f基底準位の位置を見積もった。その結果、Ce3+の4f基底準位はCHCの伝導帯内部ないしはごく近傍に位置する可能性が高いことを見出した。以上の結果から、Ce3+の5d準位の底はCHCの伝導帯内部に存在するためにCe:CHCでは5d-4f発光が発現しなかったと考えられる。より高発光量なシンチレータ材料探索のため、CHCの塩素をヨウ素で置換したCs2HfI6(CHI)を育成し、その特性を評価した。バンドギャップエネルギーが小さくなったことで、発光量がCHCの1.2倍程度に増加し、発光波長が赤橙色(650 nm)へとシフトし、CHIは赤色発光シンチレータの中で最大の発光量を有することが分かった。CHIにもCe3+発光中心添加を試みたが、CHCと同様Ce3+の5d-4f発光は発現しなかった。Gd:CHCで得られた知見から、Ce3+の5d準位の底がCHIの伝導帯内に存在すると推論され、希土類元素添加よりも置換により母材そのものを変えるほうが、特性向上には有効であるという知見を得た。
CHIよりも長波長で発光し、同程度に発光量が高く、かつシングルフォトンカウンティングで発光量が測定できる程度に蛍光寿命が短いシンチレータはこれまで実現されていないことから、今後はCHIを中心として材料設計を行うほうが、より高性能で魅力的なシンチレータ材料の実現が可能であると判断した。ここで、CHCと同様にCHIに添加したCe3+の5d-4f発光が発現しなかったことから、希土類元素をはじめとする発光中心添加はCHIの特性向上には不向きであり、むしろ母材構成元素の置換が効果的であると予想した。CHCに比べてバンドギャップエネルギーが小さいために、CHIでは発光量が増加し波長が長波長にシフトしたことを踏まえると、CHI構成カチオンのCsやHfを他元素で置換して、さらにバンドギャップエネルギーを小さくすることで、より高発光量・長波長発光の材料が実現できると期待できる。したがってまず本年度では、実際にカチオンを一部ないしは全部置換したCHIの結晶結晶育成を行い、その発光およびシンチレーション特性の評価を行い、さらなる高発光量・長波長発光シンチレータの材料探索を行う計画である。材料探索に加えて、赤色発光シンチレータの応用検討を進める。赤色は石英製光ファイバー中での伝送損失が青~黄色より低いことから、赤色・高発光量シンチレータであるCHIは、長尺光ファイバーの先端にシンチレータを装着した放射線遠隔測定技術に応用可能である。本技術は、光ファイバーを使用しないと放射線検出が困難な環境下、例えば放射線検出器を持ち込めないほどの超高線量空間などでの放射線検出に有利である。本年度は実際に光ファイバーを用いたシンチレーション光の読み出し試験を行い、本技術の実現可能性を検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 6件) 備考 (1件)
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