研究課題
本研究は発光量・エネルギー分解能に優れるが蛍光寿命が遅く用途が限られている新規ハロゲン化物シンチレータCs2HfCl6の特性向上、特に蛍光寿命の高速化を目指している。2018年度までで、蛍光寿命がCs2HfCl6の約半分となるヨウ化物シンチレータCs2HfI6(CHI)の開発に成功しており、かつ、CHIはこれまで実現されてこなかった赤色領域で高発光量を示すシンチレータとなった。そこで2019年度は、目標の特性を有する新規シンチレータの開発のため、ハロゲン置換による蛍光寿命の高速化を目指して研究を行った。加えて、開発したCHIの実用化に向けて、赤色発光の利点を強く活かした画期的なリモート放射線量モニタの試作・実働試験を行った。Cs2HfX6(XはCl, Br, I)の組成からなる種々のハロゲン混合単結晶を育成し、発光・放射線応答特性を評価した。構成ハロゲンをClからBr、Iへと変えてゆくと発光波長が長波長へとシフトしてゆき、Iが含まれる結晶の発光波長はCs2HfI6同様に700 nm付近となった。青~黄色領域で発光する塩臭化物の蛍光寿命は測定可能であり、Cs2HfCl3Br3は2.18 ± 0.27 μsとなり、塩臭化物もCs2HfCl6よりも早い蛍光寿命を有することが分かった。一方、既存の光電子増倍管は700 nm付近の量子効率が著しく悪く、蛍光寿命を精度よく測定することができなかった。そのため、測定戒能にするための新しい測定環境を現在立ち上げ中である。また、Cs2HfCl3Br3単結晶を用いて単結晶X線回折による結晶構造解析を行ったところ、ClとBrはHfに対してランダムに配位した[HfCl3Br3]八面体を形成していることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
2018年度でCs2HfCl6にCe3+の5d-4f発光が発現しない原因を、他のランタノイドイオンの添加・発光の観察から、Ce3+の5d最低励起準位が伝導帯内に存在しているためと明らかにした。そこで2019年度では、当初の研究計画のうち、Ce3+/Ce4+の価数調整のための異価数カチオンの共添加を見送り、構成元素そのものの置換によるバンドギャップエネルギー調整および特性向上を試みた。また、バンドギャップエネルギー調整の一環で、バンドギャップエネルギーを広げるためのF置換に加えて、逆にバンドギャップエネルギーを小さくして固有発光そのものの高速化を狙ったBr, I置換にも取り組んだ。ここでは、2018年度に改良したハロゲン化物用単結晶育成炉やルツボを利用し、Cs2HfX6(XはCl, Br, I)の組成からなる種々のハロゲン混合材料を実際に単結晶育成した。また、原料粉末も本研究の予算を用いて購入した。ハロゲン混合結晶での蛍光寿命を系統的に調査し、構造・構成ハロゲンの観点からデータベース化を進めている。ただし、ヨウ化物を中心に、発光波長が約700 nm付近の赤色発光になり、現有の蛍光寿命測定セットアップでは測定できないことから、2019年度末から新測定セットアップの立ち上げを行っている途中であり、2020年度にも継続して取り組む計画である。加えて、現行でもっとも高速な蛍光寿命となるヨウ化物CHIに対し、カチオン置換の面から、高速化・長波長化・高発光量化を試みた。実際にA2MI6(Aはアルカリ金属、MはHfまたはZr)の組成からなる結晶を育成し、発光・放射線応答特性を調査した。調査を開始したばかりであり、結晶構造が構成アルカリ金属により大きく変わってゆくため、特性と構成元素・結晶構造の関連付けが難しい材料群である。2020年度にも継続して取り組む。
申請者が2018年に画期的な赤色シンチレータとしてCHIを発表してから、シンチレータ分野で赤~近赤外光を発現させる研究が盛んになってきた。たとえば、オランダの研究グループはEuとSmの二つの発光中心を組み合わせて780 nm付近の近赤外発光する材料を発表してきている。本研究課題の成果がトリガーとなったこの機運を逃さず、今後も発展させてゆくため、高発光量・高速蛍光寿命という当該研究課題の本来のキーワードに加えて、赤~近赤外発光も狙い、単に新規なだけでなく、「真に使える」材料の開発を進めてゆく。具体的には、高速発光を付加するための発光中心として選択していたCe3+に加えて、Eu2+/Sm2+や、Yb2+などの赤~近赤外発光中心の添加を検討する。母材はCHIをはじめとするヨウ化物とし、もともと赤色で発光する母材からの効果的なエネルギー輸送を狙う。当初の研究計画のとおり、2020年度には実用化に向けた大型結晶の育成を目指しており、2020年度前半に最終組成を決定し、年度半ばでの大型化を行う計画である。赤~近赤外発光は、材料としての魅力に加えて、これまでの紫外~可視光発光シンチレータで実現できなかった、光ファイバーでの長距離光子輸送が可能な点に大きな利点がある。申請者が開発したCHIを使用し、2019年度に原子炉・廃炉用の光ファイバー読み出しリアルタイムリモートガンマ線量モニタを実機試験し、学術論文にて発表している。これを発展させ、実際に原子炉、ないしは未知放射線量空間での実働試験を行い、実用化に向けた開発を継続して進めてゆく。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件) 備考 (2件)
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http://yoshikawa-lab.imr.tohoku.ac.jp/personal/kodama/
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