研究課題/領域番号 |
18J21327
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒澤 珠希 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 間葉系前駆細胞 / PDGFRα / 間質細胞 |
研究実績の概要 |
コラーゲンや線維芽細胞の増加による組織の線維化は、急性の創傷治癒において正常な反応である一方、慢性炎症や老化の果てに生じる過剰な線維化は臓器本来の機能をも損なう。社会の高齢化に伴い、各線維症は医療が克服すべき主たる課題となったにも関わらず、線維症に対する根本的な治療法は未だ存在しない。 近年、骨格筋において血小板由来増殖因子受容体α(PDGFRα)を発現する間質細胞が間葉系幹細胞(MSC)様の前駆細胞能を有しており、筋組織における脂肪細胞ならびに線維芽細胞の起源であることが報告された。さらに、PDGFRα陽性細胞は全身の様々な正常臓器の間質に存在し、各臓器線維症に関与することが明らかとなってきた。しかしながら、①さまざまな組織に存在するPDGFRα陽性細胞が同一の細胞特性を持つのか、②各臓器の線維化に際して本細胞と他の周辺細胞との間にどのような相互作用があるか、③各線維症の発症におけるPDGFRα陽性細胞の働きに違いがあるか、またそれを阻止する手段があるか、といった細胞学的および病態生理学的な臓器間差異は不明である。本研究では全身のさまざまな臓器におけるPDGFRα陽性細胞の特性を解析することで、各線維症に対する治療戦略の基盤構築を目指す。 本研究ではまず初めに、さまざまな臓器における同細胞の分布を明らかにするため、各臓器における同細胞の免疫染色を行った。続いて各臓器におけるPDGFRα陽性細胞の特性を探るため、FACS細胞分取法を用いて6つの異なる臓器からPDGFRα陽性細胞を単離し、培養して形態や分化能から細胞特性を調べるとともに、RNA-seq解析による網羅的遺伝子発現解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、全身のさまざまな臓器におけるPDFGFRα陽性間質細胞に関して、昨年度に確立した細胞単離手法と RNA-seq 解析結果を用いて、各臓器における間質細胞の特性解析を計画通り進めることができた。6つの臓器間質のPDGFRα細胞の遺伝子発現解析結果を網羅的に比較することで、各臓器の間質細胞に特異的な遺伝子、および全身の間質細胞に普遍的に発現する遺伝子を絞り込むに至った。 加えて今年度は、間質細胞の質を決定する因子を探る目的で、老化マウスの6臓器における各PDGFRα間質細胞に対しても、同様のRNA-seq解析および分化能比較解析を実施した。結果、さまざまな臓器のPDGFRα間質細胞に関して、若い間質細胞にのみ特異的に発現し老化により発現の著しく低下する遺伝子を複数見出すに至った。これらから、全身のさまざまな臓器におけるPDGFRα陽性細胞の特性解析はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
来年度に向けて、より詳細に全身のさまざまな臓器におけるPDGFRα陽性細胞の特性解析を実施するため、オープンクロマチン領域を網羅的に探索するATAC-Seq解析の実施を開始した。この解析により、さまざまな臓器の間質細胞の差異をより詳細に捉えるとともに、すでに実施済みのRNA-seq解析結果と併せることで、間質細胞の加齢変化を司る転写因子を推察することが可能となる。 また、加齢に伴いPDGFRα陽性細胞における発現の減少する遺伝子に関して、良質な間質細胞における機能因子である可能性を想定し、引き続き解析を進める。 昨年度は骨格筋に関して、RNA-seq解析の結果注目した遺伝子に関して、real time PCR を用いた追加実験を施行した。老化により骨格筋のPDGFRα細胞にて発現が減少する複数の遺伝子は、セルソーターを用いて若いマウスの筋から単離した内皮細胞、汎血球細胞、衛星細胞、PDGFRα陽性細胞のうち、PDGFRα陽性細胞にて特異的に発現していた。これらの発現は筋組織レベルでも若い時に高く、老化によりほとんど消失した。若いマウス骨格筋から単離したPDGFRα陽性細胞を、病的な状態を想定して脂肪細胞へ分化誘導したところ、これら遺伝子の発現はほとんど失われた。以上のことより、今回見出した遺伝子は、健康な若い骨格筋の間質にて何らかの機能を担う可能性があると推察している。今後、これら遺伝子のノックアウトマウスを解析することで、その機能の検討を進めていく予定である。 同様の解析は他の臓器に対しても実施可能であり、今後順に解析を進める予定である。
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