2種の自由産卵を行う有性生殖クマムシ、Paramacrobiotus sp.とMacrobiotus shonaicusを用いて、雌雄配偶子とその接合子の観察を電子顕微鏡下で行った。その結果、Paramacrobiotus sp.の先体が極めて長く発達していること、両種の核がコイル状になっていることを見出した。また産卵直後の卵表面に精子が先体を介して結合している様子の撮影に初めて成功した。さらに交尾後のメスを解剖し、貯精嚢で精子の尾部が短縮化されることを確認した。これらの研究はクマムシの配偶子形態とその接合子を時系列に沿って明確に観察した初の研究であり、国際論文誌Zygoteに受理、公開された。 精子の形態が種間で大きく異なることから、それらの形態が水中での遊泳に与える影響を調べるため、筑波大学下田臨海実験所の稲葉一男博士、柴小菊博士と共同で、交尾中の精子遊泳をハイスピードカメラにて撮影した。遊泳中は精子の頭部と尾部の結合点である中片を先頭として、直進と曲進を繰り返していることを明らかにした。また頭部、尾部ともに長いParamacrobiotus sp.の方がM. shonaicusに比べて遊泳速度が早かった。ソフトウェアによる解析では、遊泳中の頭部での運動はほとんどなく、尾部の運動のみを用いて遊泳していることが示唆された。交尾後15分経過したメスの総排泄孔を電子顕微鏡で観察すると、強く密集した精子が絡まりあって付着していたことから、長い頭部は遊泳よりむしろメス体内への移入まで総排泄孔に密集するために必要であると考えられた。これらの研究は2件の国内学会で発表し、現在国際論文誌への投稿準備中である。 上記の研究に加えて、かねてより見出していたMilnesium属のクマムシ(オニクマムシ)の新種Milnesium pacificumと、タイプ種Milnesium tardigradumの日本初記録を論文としてまとめ、国際論文誌Zoological Scienceに受理、公開された。
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