近年,患者の遺伝学的背景に基づき治療法を最適化するテーラーメイド医療の実現が期待されているが,遺伝子変異や遺伝子の過剰発現(バイオマーカー)に基づき選択できる抗がん剤の種類は未だ乏しい.本研究では,大腸がん・膵臓がん・胃がん患者由来のオルガノイド約200例を含む消化器がんオルガノイドライブラリーを用いて抗がん剤感受性を網羅的に評価し,取得済みの多階層オミクス情報との統合解析により抗がん剤感受性バイオマーカーを探索することを目的として研究を行なってきた.昨年度までに,IGF-1とFGF-2を用いた新規オルガノイド培養法による薬剤スクリーニング系を確立し,大腸オルガノイド25例に対する66化合物の50%成長阻害濃度(IC50)と膵臓オルガノイド35例に対する11化合物のIC50の取得を完了した.多階層オミクス情報との統合解析により,EGFR標的治療に対する耐性バイオマーカーを含む既知のバイオマーカーが検出されること,及び大腸がんにおけるCpG island methylator phenotype(CIMP)が微小管重合阻害剤パクリタキセルへの感受性と関連することを明らかにした.今年度は,大腸正常上皮及び前がん病変由来オルガノイドと大腸がんオルガノイドの比較に基づき大腸がん特異的な増殖抑制効果を示す化合物を同定し,その作用機序を解析した.CRISPR/Cas9システムにより大腸がんの主要な遺伝子変異(APC,KRAS,TP53,SMAD4)を導入した正常大腸オルガノイドは本化合物に対して耐性であり,がんの進展に伴うエピゲノム異常が本化合物の感受性に寄与すると考えられた.既知・新規のバイオマーカー及び治療薬候補が同定されたことから,本研究で確立された新規オルガノイド培養法による薬剤スクリーニング系が,ゲノム薬理学及び創薬研究プラットフォームとして有用であることが実証された.
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