研究課題/領域番号 |
18J21360
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
栗本 悠司 岡山大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ジチエノフラン / ジチエノチオフェン / 付加脱離反応 / 脱水素型環化反応 / 蛍光特性 |
研究実績の概要 |
申請者がこれまでに開発した手法であるベンゾジチエノフラン(BDTF)の効率的合成法を発展させ、ベンゾジチエノチオフェン(BDTT)の合成に応用したところ、付加脱離反応に続く還元反応および脱水素型環化反応を経る工程により効率的にBDTTを合成することができた。さらに得られたBDTTはよりπ拡張した誘導体へと変換することもできた。BDTFの合成については、より温和な条件下で目的物を得られる条件を見出しただけでなく、電子求引性基を導入したπ拡張した誘導体の合成にも成功した。 さらに、得られたBDTF、BDTT誘導体の物性調査および比較を行うことで、カルコゲン原子の違いにより、物性にどのような差が生じるのか調査を行った。 初めに半導体特性の調査を行い、BDTFの二量化体であるBBDTFが類縁体であるBBDTTとほぼ同程度の移動度を有していることを明らかにした。また、この結果はジチエノフラン骨格を持つ化合物が半導体特性を有していることを示した初めての報告例である。 また、吸光特性、蛍光特性についても比較を行った。吸光特性については、BDTF誘導体がBDTT誘導体に比べ、より長波長側に吸収帯を有していることが確認された。また、蛍光特性については、BDTF誘導体がより優れた蛍光特性を有することも明らかとした。特に電子求引性基を導入した誘導体については、より顕著な効果が確認され、蛍光量子収率においては40%以上の差が確認された。 これらの結果は、構造と機能の相関について一定以上の知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者がこれまでに開発したベンゾジチエノフラン(BDTF)の効率的合成法を発展させBDTTの合成に応用した。すなわち、求核種として3-チエニルチオラート種を用いることで、付加脱離反応を進行させ、チオエーテル架橋体を得た。さらに、続く脱水素型環化反応と、DIBALを用いた還元反応によってBDTTを3工程で効率的に合成することに成功した。さらに得られたBDTTはブロモ化に続く鈴木ー宮浦クロスカップリングに供することで、よりπ拡張した誘導体へと変換することもできた。 続いて、得られたBDTT誘導体とBDTF誘導体の物性調査および比較を行った。まず、BDTFの二量化体であるBBDTFを用いてOFETデバイスを作成し半導体特性の評価を行った。最大正孔移動度は0.13 cm2/Vsであり、半導体特性の発現が確認された。また、これまでに報告されているBDTTの二量化体であるBBDTTの移動度は最大0.15 cm2/Vsであるので、ほぼ同程度の移動度をBBDTFは有していることがわかった。しかし、最大ドレイン電流とカットオフ時のドレイン電流との比 (Ion/Ioff) やしきい値電圧 (Vth) はBBDTTの方が優れた値を示していた。この結果は、BBDTFに比べBBDTTの方が強い相互作用の影響を受けたパッキング構造を形成する事実と矛盾しない結果といえる。 次に、紫外可視吸光測定、蛍光測定、蛍光量子収率測定を行った。BDTF誘導体はBDTT誘導体に比べ、いずれもより長波長側に吸収帯および蛍光が観測され、より優れた蛍光特性の発現も観測された。 以上の実験結果はジチエノフラン骨格を持つ化合物が半導体特性を有することを示した最初の例となっただけでなく、BDTF誘導体が類縁体に比べ優れた蛍光特性を有することを明確に示す結果であり、有機合成化学、機能分子化学双方の観点から重要な知見であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
申請者が開発したPd触媒を用いた縮環反応を更に発展させ、炭素架橋されたビアリールに対して適用することでフルオレノール誘導体を合成することを研究目的とする。これまでに炭素架橋されたビアリールを、Pd触媒を用いた分子内縮環反応の条件に適用すると、フルオレノール誘導体ではなくクロメン誘導体のみが選択的に得られることが報告されている。この理由は、基質に活性の高いヒドロキシ基が存在することから、Pd触媒がヒドロキシ基とパラダサイクルを形成するためである。 したがって、炭素架橋されたビアリールからフルオレノールを選択的に合成するには、ヒドロキシ基とのパラダサイクルの形成を抑制し、2つのアリール基がパラジウムで架橋したパラダサイクルを形成させる必要がある。 この課題は、申請者がこれまでの研究で得た知見からPd触媒の立体、電子的環境を適切に調整することで達成できるのではないかと考えている。また、もしヒドロキシ基の保護を必要としないフルオレノールの選択的な合成法を確立することができれば、既存の系と併せて一つの基質から様々なクロメンおよびフルオレノール誘導体の合成が可能になり、ダイバーシティに富んだ有用な合成法となるはずである。 さらに得られたフルオレノール誘導体は脱水反応により非芳香族であるフルベンを骨格に有した新規複素多環芳香族へと変換できるはずである。フルベンは分子内に双極子を有する化合物であり、幅広い吸収帯を持つことから近年有機機能性材料の分野でも注目されている骨格である。そこで多様なフルベン誘導体の合成と、その物性解明を行っていくことも研究目標とし、現在研究を継続している。
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