研究課題/領域番号 |
18J21373
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
永沢 亮 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞外DNA / バイオフィルム / Streptococcus mutans / タイムラプスイメージング |
研究実績の概要 |
う蝕の主要原因細菌であるStreptococcus mutansは、バイオフィルムを形成することによって病原性を示すことから、バイオフィルム感染症の一つのモデル細菌として研究されている。S. mutansのバイオフィルム形成において、細胞外DNAは物質表面への付着や細菌間の接着に貢献することが報告されている。しかしながら、どのようにして細胞外DNAが産生され、バイオフィルム中のどこに局在するのかは不明である。本研究は、細胞外DNA産生に着目し、細菌の集団的挙動を理解することを目的としている。 昨年度、マイクロ流体デバイスを用いた一細胞レベル観察により、死細胞からDNAが遊離し、細胞外DNAが産生される過程を観察することに成功した。今年度は、バイオフィルム内部において、いつどこで細胞外DNAが産生されるのかを共焦点レーザー顕微鏡を用いた3Dタイムラプスイメージングにより解析した。その結果、細胞外DNAは、バイオフィルムが成長するにしたがって増加し、その局在は不均一であることが示された。三次元構造体であるバイオフィルムでは、表層部と深部で酸素濃度やpHが大きく異なる。また、S. mutansのバイオフィルムは無数の細胞凝集塊(マイクロコロニー)から構成されるため、細菌の密度も不均一である。こうしたことから、環境要因や細菌密度依存的遺伝子発現制御の影響を検討したが、細胞外DNA産生に顕著な影響を与える因子を特定することはできなかった。しかしながら、培養液中に浮遊している細菌と比較して、物質表面に付着している細菌は、細胞外DNA産生に関わる推定自己溶菌酵素を高頻度で発現していたことから、細胞と物質表面との相互作用が細胞外DNA産生に影響することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、細胞外DNA産生を中心とした微生物の集団的な挙動の可視化とそのメカニズム解析を目的としている。現在までに、蛍光顕微鏡を用いた一細胞レベルでのタイムラプスイメージングと共焦点レーザー顕微鏡を用いたバイオフィルム形成の3Dタイムラプスイメージングにより、細胞外DNA産生を可視化することに成功している。また、バイオフィルム内部における局所的な細胞外DNA産生を制御するメカニズムの解析にも着手することができた。バイオフィルム内における細胞外DNA産生には、細胞の物質表面への付着が重要である可能性が示唆されたが、S. mutansにおける表面付着の認識機構は明らかでない。そこで、バイオフィルム中の表現型がことなる各細胞を分取して解析するという新規アプローチを検討しており、これまでにそのアプローチが実行可能であることを確認している。こうしたことから、本研究課題は順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
S. mutansのバイオフィルム内部における局所的な細胞外DNA産生メカニズムは、既知の環境認識メカニズムだけでは説明できないと思われる。そこで、セルソーターを用いた細胞分取によって、新規メカニズムの解明に迫りたいと考えている。分取のために必要な菌株の作製は現在までに完了しているが、細胞をより効率的かつ再現良く分離・回収する方法を検討する必要がある。手法が確立され次第、細胞外DNA産生に関わる遺伝子発現制御ネットワークの網羅的な解析を進めたいと考えている。
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