自然環境中における微生物の存在様式とされるバイオフィルムは、細胞と菌体外物質から構成される。バイオフィルムには、菌体外物質として細胞外DNAが含まれる。細胞外DNAは、死細胞内から細胞外へと遊離したDNAであると考えられ、バイオフィルムの形成及び、構造安定性に貢献する。本研究では、う蝕主要原因細菌であるStreptococcus mutansを材料として、単細胞生物である細菌が集団中の一部の細胞を犠牲にしながら、安定なバイオフィルムを形成するメカニズムを解析した。 昨年度までの研究により、細胞間コミュニケーションによって発現誘導される自己溶菌酵素が細胞外DNA産生に関わることを明らかにし、バイオフィルム内における自己溶菌酵素発現細胞、死細胞、細胞外DNAの局在を示した。また、自己溶菌酵素を発現した細胞が必ずしも細胞死を引き起こさないことも明らかとなった。本年度は、バイオフィルム内における局在化にどのような意義があるのか、さらには、細胞の生死がどのようにして決まるのかを解析した。 自己溶菌酵素発現細胞、死細胞、細胞外DNAがバイオフィルムの底面部に多く存在したことから、この局在化が物質表面への細胞及び、バイオフィルムの付着性増強に寄与していると予測し、細胞外DNAを分解するDNaseがバイオフィルム形成を阻害するかどうかを調べた。DNaseを添加した培地でS. mutansを培養したところ、バイオフィルム形成が低下した。また、自己溶菌酵素の欠損株はポリスチレン表面への付着性が野生株と比較して低下したことからも、バイオフィルム内における局在性が物質表面への細胞の付着性に寄与していると考えられた。 細胞死に関わる新規因子の探索としては、生菌内と死菌内のmRNAの網羅的比較を行った。生菌と死菌とで蓄積量に差がある遺伝子がピックアップされ、新規細胞死関連候補遺伝子の抽出に成功した。
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