研究課題/領域番号 |
18J21382
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田村 亮太 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 悪性神経膠腫 / Bevacizumab / Neoadjuvant chemotherapy / 耐性 / 腫瘍関連免疫 / 血管新生 |
研究実績の概要 |
極めて難治性の悪性神経膠腫に対し、高い奏功率を示し、Performance Statusの改善・維持をもたらすbevacizumab (BEV)の抗腫瘍メカニズムや耐性メカニズムを明らかにすることは、限られた治療法しかない悪性神経膠腫の患者にとって非常に有益である。そのためには、実際のヒト標本におけるBEV奏功下腫瘍およびBEV不応腫瘍のin situ observation、またはヒト細胞を用いたBEV耐性動物モデルの樹立が不可欠である。申請者のグループは2016年より継続して研究報告を続けており、BEVによる腫瘍血管の変化、腫瘍組織低酸素の改善、幹細胞hypoxic nicheの枯渇などを世界に先駆けて報告した。本研究では、初発腫瘍、BEV奏功下腫瘍、BEV不応腫瘍(計70標本)において、病理組織学的および分子生物学的に比較検討することにより、特に他の血管新生経路及び、免疫担当細胞の側面からBEVの抗腫瘍・耐性メカニズムを解明する。さらに実際のBEV投与後腫瘍検体を用いて、BEV耐性を正確に反映した動物モデルを樹立することを目標とし、有効な治療ストラテジーの確立を目指す。本研究は、初発悪性神経膠腫に対して保険承認されている本邦でのみ可能なものであり、さらに様々な治療ステージでの腫瘍標本の解析が可能な申請者のグループならではのものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、3施設(慶應義塾大学病院・慈恵医科大学柏病院・香川大学病院)合同で、過去に様々な状況で切除された神経膠芽腫標本を47例収集し、解析を行った。すなわち、「Bev奏功下切除標本」、「初回手術・Bev後再発ペア標本」、「Bev奏功下切除・再発ペア標本」という様々な状況下で摘出された腫瘍検体の解析を行った。 それぞれのパラフィン包埋切片に対して免疫染色法にて、病理組織学的に腫瘍微小環境関連細胞のマーカー(CD3, CD8, Foxp3, CD163)及び免疫チェックポイント因子(PD-1/PD-L1)の発現を解析した。Bev奏功下標本では、naïve Bev(Bev非投与、初回手術)標本に対してPD-1及びPD-L1の発現は有意に低下していた。免疫抑制性のFoxp3+制御性T細胞(Treg)及びCD163+腫瘍関連マクロファージ(TAM)の細胞数はBev奏功下で有意に低下していた。一方で腫瘍内のCD3陽性もしくはCD8陽性T細胞数はBev奏功下で増加する傾向にあった。興味深いことに、Bevの長期投与後再発標本においても、これらの微小環境は比較的維持されていた。初回手術・Bev後再発ペア標本(同一症例)に関しても同様の結果であった。VEGF-Aは初発時から再発時にかけて永続的に腫瘍増大に関与していることから、Bevacizumab beyond progressionという概念が大腸癌等で提唱され、腫瘍再発時もBevを投与し続けることによる利点が報告された。本研究結果により、BevによりVEGF-Aを持続的に阻害しつづけることにより、VEGF-Aに依存して誘導される免疫抑制細胞及び免疫チェックポイント因子は抑制され、抗腫瘍免疫に対してsupportiveな効果を及ぼす事ができる可能性が示唆された。本研究結果は、効果的なBev併用法等の探索に大いにつながると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
①Bev投与によるVEGF-A以外のFGF、Angiopoietin-1.2、PlGF等の他の血管新生pathway のリガンドと受容体の挙動に関しては現在結果解析中であり、今年度での報告を目指している。上記は、大いに耐性機序と関連している可能性がある。 ②さらに、本年度報告したBev投与による腫瘍関連免疫の変化が、Bev単独の効果である事を強調するために、標準治療であるテモダール・放射線治療前後の同一患者検体10例の結果と比較解析する予定である。これは、学会発表に際し、フロアからして頂いた質問事項を元に計画したものである。 ③さらに、BEV投与後再発症例のうち大部分はautopsyの検体である。画像上の造影領域とその辺縁のFLAIR high領域や、皮質・白質・脳室周囲等に分け領域ごとに組織学的解析を行う予定である。具体的にはStem cell markerを発現する細胞の分布や、免疫担当細胞(tumor associated macrophageやregulatory T cell)の分布を詳細に解析する。可能であれあれば、凍結標本を用いて各領域に分けRNA抽出等も行い遺伝子発現解析を行う。本研究により、神経膠腫におけるMRI等の画像所見と実際の遺伝学的及び組織学的所見の対比が極めて詳細に可能となり、本質を理解できる可能性がある。また同時に治療予測バイオマーカーの探索へとつながる。
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