研究課題/領域番号 |
18J21441
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
奥村 元紀 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 腫瘍免疫逃避 / NK細胞 / チェックポイント分子 |
研究実績の概要 |
がん細胞と免疫細胞の関係は、排除相、平衡相、逃避相の3相からなるがん免疫編集と呼ばれる概念にまとめられており、免疫応答が正負に制御されている。膜型CD155は、がん細胞で高発現し、NK細胞やT細胞に発現する活性化受容体DNAM-1や抑制性受容体TIGIT、CD96と結合することで、抗腫瘍免疫を正負に制御することが知られている。一方で、我々は、可溶型CD155(sCD155)ががん細胞で強く発現し、血中sCD155濃度がステージと相関することを見出した。しかし、sCD155の抗腫瘍免疫応答における機能は不明であった。そこで、本研究では腫瘍微小環境における可溶型CD155の機能を解明することを目的とした。 ヒト細胞とは異なり、マウス細胞ではsCD155が発現しないため、我々は人工的マウスsCD155を産生するB16/BL6を作製し、肺転移モデルにてsCD155の機能を調べた。その結果、sCD155はDNAM-1依存的にNK細胞の抗腫瘍免疫を抑制することで、顕著に転移を促進した。加えて、細胞傷害活性の解析より、マウスsCD155はマウスNK細胞のDNAM-1依存的な細胞傷害を抑制しており、同様に、ヒトsCD155もヒトNK細胞の細胞傷害を抑制することが明らかになった。しかし、腫瘍浸潤NK細胞やヒトNK細胞にはDNAM-1だけでなく、TIGITやCD96も発現する。sCD155がDNAM-1を優先的に阻害するメカニズムを解明するため、各受容体に対するsCD155の親和性を比較した結果、sCD155はDNAM-1に最も強く結合することが示された。これらのことから、B16/BL6肺転移モデルやヒト腫瘍環境において、sCD155はNK細胞上のDNAM-1の機能を阻害することで、腫瘍免疫逃避に働くことが示唆された。以上より、sCD155が新規がん免疫療法の分子標的として期待できると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
可溶型CD155がなぜDNAM-1の機能を優先的に阻害するのか、メカニズムの解明に時間を費やしたが、各受容体との親和性に着目することで、解決することができた。 本研究において、可溶型CD155による腫瘍免疫逃避機構の一端を明らかにすることができたため、現在は論文投稿に向けて準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、論文投稿に向けて準備中である。 論文発表後は、皮下移入モデルなど実際の腫瘍環境により近いモデルにおいても可溶型CD155が腫瘍免疫逃避に関与しているかを確認する予定である。さらに、可溶型CD155を標的とした治療法についても検討する。
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