研究実績の概要 |
分配的正義の問題と深く関連する寄付場面での利他行動を支える心理メカニズムを明らかにした共著論文を発表した(Saito, Ueshima, Tanida, & Kameda, 2019, Social Neuroscience)。この研究では、社会情報(ある寄付プロジェクトがどの程度人気を集めているか)が人々の寄付行動にどのような影響を与えるかを検討した。実験の結果、人々は、すでに寄付を集めている寄付プロジェクトよりも、あまり寄付を集められていない寄付プロジェクトに対してより多くの寄付を行いやすいことが示された。また、このような「判官贔屓」的な行動は共感的配慮という心理プロセスによって支えられていることが明らかになった。さらに、このような共感的配慮は、情動的なプロセスと関連する可能性が、情動反応を反映するとされる瞳孔サイズの拡張率を寄付行動中に計測することで示唆された。人々が個人的には十分な情報を持っていない寄付先に対して社会情報を利用して寄付をする現代の状況において、この結果は重要性を持つと思われる。 昨年度の研究で、表面的には類似している平等性への配慮とマキシミン的配慮(最も恵まれない人々への配慮)が、功利主義的配慮との関係において異なる面を持つことが明らかになっていた点について、より詳細に検討するための追加の行動実験を行なった。実験の結果、資源分配を平等主義的配慮と功利主義的配慮のトレードオフであるとフレーミングした場合には、人々にとってトレードオフは困難になるのに対して、同じ資源分配を最不遇者への配慮と功利主義的配慮のトレードオフであるとフレーミングした場合には、トレーフドオフの困難さが薄れる可能性がを示された。この結果は、資源分配が最不遇者への配慮と功利主義的配慮のトレードオフであるとフレームすることが、資源分配をめぐる合意形成を促進する可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまず寄付場面での利他行動を支える心理メカニズムに関する研究を国際誌に発表することができた。(Saito, Ueshima, Tanida, & Kameda, 2019, Social Neuroscience)。今日の寄付場面では、個々人が自らの知識に基づいて寄付を行う場合のみならず、社会的情報(例えば、ある寄付先がどの程度人気があるか、など)に基づいて寄付を行う場合が増えている。実際に、インターネット上で寄付を行うことができるウェブサイトでは、複数の寄付先が提示され、それぞれの寄付先がどのくらいの寄付額を集めているかや、どのくらいの人数に寄付されたかが一覧で見ることができる場合がある(例えば、StartSomeGood, Razoo、などのウェブサイト)。この研究では、このように社会情報が存在する状況において、社会情報が人々の寄付行動にどのような影響を与えるかを行動計測と視線計測、質問紙調査を組み合わせて検討することができた。 加えて、新たに行動実験を行うことができた。これまでの資源分配に関する研究では、平等主義と功利主義は対立的関係にあることが示されてきた。しかしながら、平等主義と表面上類似するマキシミン的配慮(ここでは、最も恵まれない人々への配慮)が、平等主義と同じく功利主義と対立関係にあるか否かについては明らかではなかった。そこで、新たな実験を実施することで、平等主義的配慮とマキシミン的配慮が功利主義的配慮との関係においてどのような異なりを持つのかを検証することができた。この実験の解析は現在予定通り進行している。 一連の研究成果の一部を、日本心理学会第83回大会、日本社会心理学会第60回大会等で発表した。日本心理学会では学術大会優秀発表賞を受賞するなど、一定の評価を得ることができた。 以上の理由から研究がおおむね順調に進展したと考えられる。
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