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2019 年度 実績報告書

分配的正義の合意形成を支える認知・神経メカニズムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 18J21498
研究機関東京大学

研究代表者

上島 淳史  東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2018-04-25 – 2021-03-31
キーワード分配の正義 / 合意形成 / フレーミング / 利他行動 / 寄付
研究実績の概要

分配的正義の問題と深く関連する寄付場面での利他行動を支える心理メカニズムを明らかにした共著論文を発表した(Saito, Ueshima, Tanida, & Kameda, 2019, Social Neuroscience)。この研究では、社会情報(ある寄付プロジェクトがどの程度人気を集めているか)が人々の寄付行動にどのような影響を与えるかを検討した。実験の結果、人々は、すでに寄付を集めている寄付プロジェクトよりも、あまり寄付を集められていない寄付プロジェクトに対してより多くの寄付を行いやすいことが示された。また、このような「判官贔屓」的な行動は共感的配慮という心理プロセスによって支えられていることが明らかになった。さらに、このような共感的配慮は、情動的なプロセスと関連する可能性が、情動反応を反映するとされる瞳孔サイズの拡張率を寄付行動中に計測することで示唆された。人々が個人的には十分な情報を持っていない寄付先に対して社会情報を利用して寄付をする現代の状況において、この結果は重要性を持つと思われる。
昨年度の研究で、表面的には類似している平等性への配慮とマキシミン的配慮(最も恵まれない人々への配慮)が、功利主義的配慮との関係において異なる面を持つことが明らかになっていた点について、より詳細に検討するための追加の行動実験を行なった。実験の結果、資源分配を平等主義的配慮と功利主義的配慮のトレードオフであるとフレーミングした場合には、人々にとってトレードオフは困難になるのに対して、同じ資源分配を最不遇者への配慮と功利主義的配慮のトレードオフであるとフレーミングした場合には、トレーフドオフの困難さが薄れる可能性がを示された。この結果は、資源分配が最不遇者への配慮と功利主義的配慮のトレードオフであるとフレームすることが、資源分配をめぐる合意形成を促進する可能性を示唆している。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度はまず寄付場面での利他行動を支える心理メカニズムに関する研究を国際誌に発表することができた。(Saito, Ueshima, Tanida, & Kameda, 2019, Social Neuroscience)。今日の寄付場面では、個々人が自らの知識に基づいて寄付を行う場合のみならず、社会的情報(例えば、ある寄付先がどの程度人気があるか、など)に基づいて寄付を行う場合が増えている。実際に、インターネット上で寄付を行うことができるウェブサイトでは、複数の寄付先が提示され、それぞれの寄付先がどのくらいの寄付額を集めているかや、どのくらいの人数に寄付されたかが一覧で見ることができる場合がある(例えば、StartSomeGood, Razoo、などのウェブサイト)。この研究では、このように社会情報が存在する状況において、社会情報が人々の寄付行動にどのような影響を与えるかを行動計測と視線計測、質問紙調査を組み合わせて検討することができた。
加えて、新たに行動実験を行うことができた。これまでの資源分配に関する研究では、平等主義と功利主義は対立的関係にあることが示されてきた。しかしながら、平等主義と表面上類似するマキシミン的配慮(ここでは、最も恵まれない人々への配慮)が、平等主義と同じく功利主義と対立関係にあるか否かについては明らかではなかった。そこで、新たな実験を実施することで、平等主義的配慮とマキシミン的配慮が功利主義的配慮との関係においてどのような異なりを持つのかを検証することができた。この実験の解析は現在予定通り進行している。
一連の研究成果の一部を、日本心理学会第83回大会、日本社会心理学会第60回大会等で発表した。日本心理学会では学術大会優秀発表賞を受賞するなど、一定の評価を得ることができた。
以上の理由から研究がおおむね順調に進展したと考えられる。

今後の研究の推進方策

引き続きマキシミン的配慮と平等主義的配慮の差異に注目する。分配の意思決定を下す際の意思決定プロセスにおいて、マキシミン的配慮と平等への配慮がどのように区別されているのかを検証する。2つの分配法から1つを選択する課題を実験参加者が行う際に、参加者が選択にいたるまでのマウスカーソルの軌跡を60Hzの時間解像度で計測する。2つの分配法のうちどちらの分配法を選択したかのデータ(選択結果のデータ)と、マキシミン的配慮と平等への配慮がどのように意思決定中に評価されたかを示すマウスカーソルの軌跡データ(選択プロセスのデータ)の2つの面から解析を行う。
得られた成果を取りまとめ、秋以降の国内学会で発表する。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2019 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)

  • [国際共同研究] Institut Jean Nicod(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      Institut Jean Nicod
  • [雑誌論文] How does social information affect charitable giving?: Empathic concern promotes support for underdog recipient2019

    • 著者名/発表者名
      Saito Yoshimatsu、Ueshima Atsushi、Tanida Shigehito、Kameda Tatsuya
    • 雑誌名

      Social Neuroscience

      巻: 14 ページ: 751~764

    • DOI

      https://doi.org/10.1080/17470919.2019.1599421

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 資源分配についての議論は不平等よりも不遇へ注意を向けさせるか2019

    • 著者名/発表者名
      上島淳史
    • 学会等名
      日本社会心理学会第60回大会
  • [学会発表] 資源分配について話し合うことは恵まれないへの配慮を高めるか2019

    • 著者名/発表者名
      上島淳史
    • 学会等名
      日本心理学会第83回大会
  • [学会発表] Deliberation Enhances Endorsements of the “Maximin” Allocation (as Opposed to the Egalitarian Allocation) in Third-party Distributive Decisions2019

    • 著者名/発表者名
      Atsushi Ueshima
    • 学会等名
      Society for Judgment and Decision Making The 2019 40th Annual Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] Group Discussion Clarifies the Difference between Maximin and Equality Principles in Social Distribution for Others2019

    • 著者名/発表者名
      Atsushi Ueshima
    • 学会等名
      CogSci 2019
    • 国際学会
  • [学会発表] いかにして資源を分けるべきかー分配的正義をめぐる会話データのモデリングー2019

    • 著者名/発表者名
      上島淳史
    • 学会等名
      日本行動計量学会第47回大会

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公開日: 2021-01-27  

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