研究課題/領域番号 |
18J21507
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
芳賀 優弥 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | Triple negative乳癌 / ダサチニブ / バイオマーカー / 上皮成長因子受容体 |
研究実績の概要 |
本研究では、難治性乳がんTNBCにおける個別化医療の実現に向け、治療法が有効な患者のみを選定可能とする薬効予測バイオマーカーの確立を目指している。これまでに代表者は、TNBC細胞株において、慢性骨髄性白血病治療薬ダサチニブが示す細胞障害性が、標的分子Srcの発現に依存しないことを明らかとした。当該年度は、ダサチニブが及ぼす細胞障害性について細胞生存関連分子の挙動を詳細に解析するとともに、Src以外のダサチニブの感受性を規定する分子・現象の探索を目的とした。具体的には、まず、ダサチニブによる標的分子Src及び下流分子の挙動について複数種類のTNBC細胞を用いて情報収集を試みたところ、Srcの活性は全ての細胞株において阻害されていたものの、下流分子であるAktの活性阻害が感受性株においてのみ確認された。その他の下流分子であるErkの活性変動は感受性に依存しないことが示された。従って、Srcの活性阻害に関わらず、細胞障害性が異なる細胞株が存在し、感受性はAktの活性阻害に依存していることが示唆された。さらに、MDA-MB-231とMDA-MB-436細胞をそれぞれ感受性株、耐性株として用い、ダサチニブのバイオマーカーの同定に向け、細胞障害性を規定する因子の探索を試みた。Srcは、細胞膜上に存在する上皮成長因子受容体(EGFR)の発現への関与が知られていることから、ダサチニブによるEGFRの発現に及ぼす影響について評価したところ、感受性株においてのみダサチニブ添加によるEGFRの発現減少が認められた。さらに、その発現低下には、Cbl分子を介したリソソーム系分解経路が関与していることが示唆された。今後は、ダサチニブの他の標的分子であるc-KIT、EPHA2受容体およびPDGFRβ受容体の関与を評価するとともに、ダサチニブによるEGFR発現低下メカニズムを詳細に解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、複雑な病態ゆえに未だ有効な治療法が見出されていない難治性乳がんTNBCにおける個別化医療の実現に向け、治療反応性と変動蛋白質の網羅的解析との連関解析を図り、TNBC 患者群の中で、治療法が有効な患者のみを選定可能とする薬効予測バイオマーカーの確立を目指し、研究を推進している。代表者はこれまでに、過去に TNBC 全体を対象とした臨床試験が組まれたものの、適応に至らなかった 慢性骨髄性白血病治療薬ダサチニブの薬効を予測し得るバイオマーカーの同定を目指し、複数種の TNBC 細胞株を用い、ダサチニブが細胞障害性におよぼす影響と標的分子 Src の発現について基礎情報を収集してきた。当該年度は、これまでに見出したTNBC細胞株において、慢性骨髄性白血病治療薬ダサチニブが、標的分子である Srcの発現が認められるのにも関わらず、ダサチニブの有効性が低い細胞株が存在するという知見を基に、ダサチニブの有効性を規定する分子の探索を試みた。現在、ダサチニブ感受性細胞株において、上皮成長因子受容体(EGFR)が、ダサチニブにより減少するという現象に着目し、バイオマーカーとしての有用性を検討している。従って、TNBCにおけるダサチニブ感受性株に共通するEGFRの発現減少という現象を見出したことから、ダサチニブの薬効予測バイオマーカーの確立に向けて、当該年度は期待通りの研究の進展が認められたと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
TNBCに対する薬物の治療選択を可能とする新規バイオマーカーの探索を念頭に、TNBC細胞に対する分子標的医薬の抗増殖抑制作用などを指標として薬効情報を収集すると共に、薬物刺激による各種細胞の発現変動蛋白質の解析・同定を図る。具体的には、昨年度に見出した、ダサチニブ感受性株においてのみ認められるダサチニブによる上皮成長因子受容体(EGFR)の発現減少の詳細なメカニズムについて、感受性株・耐性株を比較解析することで、バイオマーカーとなりうる分子の探索を図る。さらに、これまでの検討により示唆されたEGFR発現減少に関するリソソーム系分解機構の関与について、周辺分子の変動に着目し、バイオマーカーとしての有用性を検討していく。検討においては、薬物刺激前後の各細胞由来の蛋白質をLC/MS-MS法により網羅的なプロテオーム解析の実施を予定している。網羅的な解析により絞り込んだ候補分子については、バイオマーカーとしての有用性を検討するだけでなく、発現減少系・強制発現系を用いダサチニブ感受性における機能解明も合わせて実施する予定である。
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