研究課題/領域番号 |
18J21511
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鷲見 拳 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | トロピカル幾何 / リーマン・ロッホ |
研究実績の概要 |
本年度は、引き続きトロピカル幾何におけるリーマン・ロッホの定理の高次元化に向け様々な研究を行った。第一に、すでに得られているトロピカル曲線及びトロピカルアーベル曲面に対する結果の応用・一般化として、トロピカル曲線の直積として得られるトロピカル曲面やトロピカル K3 曲面に対するリーマン・ロッホの不等式へのアプローチを模索した。特に山本悠登氏によるトロピカル K3 曲面の周期の研究を参考にトロピカル K3 曲面上のトロピカル線束・因子がどのように記述されるかを観察し分類を試みた。その過程で、多面体複体としてのトロピカル K3 曲面とその非有界なセルたちを適切な方向に潰すことで得られる特異点付き整アファイン多様体の間の関係について、特にそれらの上の関数や線束の関係について研究した。トロピカル幾何には多面体複体としてのトロピカル多様体と自然に対応する特異点付きアフィン多様体の間は自然に同一視されるべき概念であるという哲学があるため、この研究が必要となった。 年明け以降は以前雑誌に投稿した論文を掲載に向けて改定することに尽力した。大幅な改定となったが、より厳密かつ読みやすい論文にすることができた。 研究発表は今年は京都大学代数幾何セミナー及び日本数学会秋季総合分科会にて行い、自身の仕事をさらに広く周知することができた。また玉原代数幾何サマースクールにて同じくトロピカル幾何を専門にする研究者たちといくつかの重要な論文について解説しあうなどし、国内でのトロピカル幾何の発展にも貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
多面体複体としてのトロピカルK3曲面と対応する特異点付き整アフィン多様体のそれぞれの上の線束の関係を探るのに時間を要した。特異点付き整アフィン多様体は接束に格子構造が入った実多様体であり、座標変換はアフィン線形関数であり、その線形部分は整行列によって表される。その特異点は整アフィン構造の特異点であり、この点の周りで接束はモノドロミーを持つ。このモノドロミーを持つときの線束の定義を模索することに時間を要したため、研究の進捗が予定よりやや遅れることとなった。 夏にはアメリカのオレゴン大学にて行われた一週間のワークショップに参加し、トロピカルイデアル及びマトロイドを用いたアプローチなどをより深く理解した。当ワークショップで得られたアイデアの一つを元にトロピカル線束の高次のコホモロジー群に相当するものを構築しようと試み、様々な例を構成しながら妥当な高次コホモロジー群の定義を模索したが、残念ながらそのアプローチでは望ましい結果にたどり着くことができなかった。 また2018年度に論文を投稿した雑誌から返事をいただき、掲載に向けて大幅な修正を加えた。結果として以前のものよりも厳密かつ読みやすいより洗練された論文となったが、 修正に多くの時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
トロピカルトーリック多様体の線形系を分析し、特にトロピカルトーリック曲面に対してはリーマン・ロッホの不等式を示す。不等式の右辺はトロピカルトーリック曲面上の因子の自己交点数及び標準因子との交点数を計算することで得られ、左辺の與は因子の線形系を調べることで得られる。トロピカルトーリック多様体の線束の同型類は多様体に対応する扇の1次元錐によって記述されるため、交点数が線形同値で不変であればこの計算はこの情報により容易に計算できると考えられる。 一方左辺の値は、曲線の場合のいくつかの計算例から計算が複雑であることが推測される。この場合についてはまず簡単なトロピカル射影空間に対して計算し、その計算過程を参考にして一般のトロピカルトーリック多様体に対する結果を導こうと考えている。 またトロピカルアーベル多様体に対する自身の結果から、線束の大域切断の集合を記述するよい方法があれば左辺の値の計算に役立つ見込みがあるため、大域切断の集合についても分析する。 これらの研究に肯定的な結果が得られた場合、トロピカルK3曲面に対する研究に繋げるためまず三次元トロピカルトーリック多様体の超曲面に対してその線束及び線形系の分析を行う。特に、超曲面上の線束であって全体空間であるトロピカルトーリック多様体上の線束に拡張されるもののクラスを特定し分類する。この分類が完了すれば、このような超曲面と線束(もしくは因子)の組に対してリーマン・ロッホの不等式が得られる可能性がある。
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